試合15分前
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「ごめんなこんな時に。お前の代理とか言って井上って子が来てんだけど…」
『……え?……なに、い、い、井上!?すんません、寝起きで俺よく分かんないんすけど…なんで井上?』
俺が聞きたいよ。
「お前に頼まれたって言ってるが」
『いやいやいや頼まない頼まない。他の人には頼んでもあいつだけは頼まない』
全否定か。やはり相当の地雷か。
『信じてください!!さすがにちゃんとした代わりのマネージャー手配しましたよ!?』
「そうなの!?居ないよ!?」
『そ、そんなはずは……あーっ!!』
病人の声とは思えない悲鳴が、鼓膜をつんざいた。
『着信すげぇ!メールも入ってる!!』
木下が動揺しながら途切れ途切れに話すのを聞くと、代打のマネージャーは『毒島選手のマネージャー代理なら先ほど来られましたが』と怪しまれて会場に入れないらしい。すんません、すぐに手配します!!と叫んで木下は電話を切った。携帯を握りしめたまま呆然とする俺。……マネージャー入れないの、こいつのせいじゃん……!!
「ね?俺、頼まれてたでしょ?」
微塵の疑いもないドヤ顔だ!そして試合まであと8分!!どうする俺、試合前から大ピンチだ!!
「遅れちゃってすみませんねー、鰻用意したり、あと…ご家族やお友達からのビデオレター用意してました!!」
は……!?
「昨日の2時半くらいにLINEしたらあいつ風邪で寝込んでてー、俺が代わりやらなくちゃって、大急ぎで皆さんの家に突撃してビデオレター集めて回ったんですよー。俺毒島選手のことなら何でも知ってます!実家とか友達とか!」
怖っ!!!
「そ、それは何時くらいの話だ?」
「夜中の3時くらいですねー」
―――じゃあこいつ、夜中の3時に俺の家族や友達を叩き起こして回ったの!?
「タブレット端末でご覧ください!ミャハ☆」
固唾を呑んでタブレットを凝視する。…うちの一家は全員、朝が弱い。特に親父は目覚ましより早く起こされるとものすごく荒れ狂ってあらゆる物を投げつけてくる。俺の動体視力が群を抜いているのは親父のお陰といえる。
『……何時だと思ってるんだ貴様ぁ!!!』
ブレにブレる映像の中心で、十数年間畏れ続けて来た『寝起きの親父』が荒れ狂う。ぎゅっと全身の筋肉が萎縮した。その恐ろしさの余り、朝練の日も、合宿の日も、起こさないように細心の注意を払い続けた狂乱の寝起き親父の怒声だ。箒だか竹刀だかで襲い掛かる親父の攻撃を機敏に躱しながら、井上がフレーム外で能天気に叫んでいる。
『お休み中にごめんなさいねー、明日、大事な試合の息子さんに一言☆お願いしまっす!』
ブレねぇ馬鹿だな!!
『明日じゃねぇよもう今日だよ!!』
ほんとだよな…
『すみませんねー、急に頼まれて!!』
ちょっ…主語、主語抜けた!!
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