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テキはトモダチ
6. 一航戦とビッグセブン(後) 〜赤城〜
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顔で中将のそばまで歩いてくる。

「ったく……この鎮守府は艦娘のやつらにどういう教育をしとるのかッ!!」
「彼女たちの自主性を重んじておりますゆえ。いやー失礼いたしました」

 頬に殴られた痕を残しながらも、提督は中将に向かってケラケラと笑っている。死んだ魚の眼差しは変わらず、殴られた痛みすら微塵も感じさせない。口の中を切ったようで、唇の端から少しだけ血が垂れているのが見えるが、それ以外に提督の怪我の痛みを訴えてくるものは、頬の痣のみだ。

「……どうあっても深海棲艦の元まで案内はせんのか?」
「だから申し上げたでしょう絶対安静だと」
「……ロドニー」
「……」

 ガシャリという鎧の音が響いた。ロドニーさんの方に視線を向けると、彼女の右手が腰に挿している剣の柄に添えられている。見るものを刺す彼女の視線の鋭さが増した。執務室内の空気の体感温度が変わり、空気の感触が固くなる。先程までは荒んだミーティングのそれだった室内の空気が、一気に開戦前の戦場の空気になった。

 まずい。もしロドニーさんがここで暴れたら……私は素手だ。相手も素手なら組み伏せる自身はあるが、まさか帯剣しているとは思ってなかった。その立ち居振る舞いから、ロドニーさんは相当な強さであることが伺える。剣で武装した彼女を、素手の私が組み伏せられるだろうか……右手の人差し指がピクピクと動いた。

 鋭い視線で室内を見回すロドニーさんの様子を伺う。彼女はすでに頭の中でこの密室での戦闘を組み立て始めている。恐らく真っ先に狙われるのは私。彼女の第一撃は何か……袈裟斬りか横薙ぎか……あるいは刺突か……彼女の殺気が視覚化されるほどに強くなってきた。その殺気は、自身が次の瞬間に刺突で私にとどめを刺すつもりであることを告げていた。

「いやぁー艦娘たるもの、戦場で火花を散らせたいものですなぁー」

 不意に提督の明るい声が室内に響き、戦場の空気を打ち破った。ロドニーさんから感じられた殺気が消え、室内の温度が幾分柔らかくなる。

「……?」
「……貴様、どういう意味だ?」
「そのままの意味です。艦娘たるもの、やはり戦いは海上で、敵を相手に繰り広げたいものですなぁ。こんな陸の上で、共に戦う仲間とではなく」
「なんだと?」

 唐突に訳のわからない事を聞かされたせいだろうか。少々怒気を抜かれたらしい中将を尻目に、提督はロドニーさんに視線を向けた。同じくロドニーさんも、あの鋭い視線のまま変わらず提督を見つめ返す。一度柔らかくなった空気が、再び硬質になった。

「なぁロドニー?」
「……?」
「その実力は、やはり敵を相手に披露したいよなぁ? 仲間の艦娘相手ではなく」
「……ああそうだな。敵ならいざ知らず、仲間を殺したくはない。栄えある一航戦ならなおさら」


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