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フロンティアを駆け抜けて
所有権争い
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けてくれたの?」
「そうだよ、君には僕の言うことを聞くって約束してもらったからね」

 当然の権利のように言うダイバ。ジェムとしては本意ではないが……助けてもらったのも、約束してしまったのも事実だと考えた。

「わかった。でも、私や私のポケモンに変なことはしないでね。……そしたら許さないから」

 アマノよりマシだろうが、ダイバも大概危険な男だ。そう念は押しておく。ダイバは頷いた。

「君が僕に逆らわなければ、何も酷いことなんてしないよ。僕はパパとは違うんだから……」

 ダイバは父が嫌いだった。傲慢で、人の意思など何とも思っていなくて、息子や妻のことなど自分のビジネスの道具としか見ていないと思っている。
 世界の誰より父を愛しているジェムとしてはその言い方に賛同は出来なかったが、実際自分の息子を容赦なくハンティングゲームの獲物にしているのを見ているが故に口は出せなかった。

「じゃあその……これから、よろしくね」
「……?」

 手を差し出すジェムに首を傾げるダイバ。こう言うしぐさは年相応に見える。ジェムが恥ずかしそうに言った。

「……これからはあなたが言った通り、私があなたに挑んできた分まで相手にするんでしょう?だったら一緒に行動しなきゃダメじゃない。だから、よろしく」
「何それ、子供みたい」
「あなたも私もまだ子供でしょ。私、ここに来るまでは大分大人に近づけたって思ってたけど……全然そんなことなかった」

 父親にもここに来ることを認められ、恩師との勝負にも勝って。もしかしたらフロンティアでも順調に勝てるかもと思っていた。でも蓋を開けてみればどうか。自分はバーチャルに負け、ブレーンに負け、自分より年下の子に手も足も出ず、あまつさえ敗戦の心の隙を突かれて妖しい男に体を明け渡してしまいそうになっていた。トレーナーとして、人として、なんと弱いことだろう。お父様が旅に出してくれなかったのも納得だ、と思った。

「だから、これも修行だと思ってあなたに付き合うことにする。それでいいわよね」
「君に否定する権利はないんだけどね……まあいいよ」

 ダイバもおずおずと手を差し出し、二人は握手を交わす。お互いすぐパッと離してしまうのは、致し方ないことだろう。手を離した後、ダイバは昏い笑みを心の中で浮かべていた。

(同じ偉い人の子供なのに……こいつは父親に愛されてるんだ。それが当然だと思って、心の底から尊敬してるんだ。そんなの許さない。壊して、堕として、僕と同じにしてやる)

 それがダイバがジェムに執着する理由だった。バトルでは自分の方が強くとも、心のありようとしてジェムはダイバの遥か高みで眩しく光っている。その光が疎ましく、そして穢したいと思ったのだ。


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