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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十六話 白狐
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派遣しなければ我々は“フェザーンを見殺しにした”、“フェザーン回廊を捕虜と引換えに帝国に売り渡した”と非難されただろう。

共同占領案も間違ってはいない。軍の考えを見ればベストの選択だろう。ボロディンが共同占領案を受け入れられなければ兵を退けと言った理由も今なら良く分かる。帝国に単独で占領させたほうがフェザーン方面は有利になると考えたからだ。しかしその時には我々は下野する事になったはずだ。

我々が下野する事は構わない、問題はその後だ。後継政権は嫌でも帝国に対し強硬にならざるを得ない。力の無いものが根拠も無しに強硬策を採る。帝国への出兵など自殺行為だろう、八方塞だ。いや、軍は兵力が無いと政府を説得するつもりだったのだろうか、ボロディン達は我々を切り捨てるつもりだったのかもしれない。

沈黙を破ったのはグリーンヒル総参謀長の憂鬱そうな声だった。
「他にも問題があります」
「分かっている、最後の“反帝国的な活動を行なわないこと”だろう。いくらでも言い掛かりをつける事は可能だからな」
ホアンが渋い表情で吐き捨てた。

「いえ、そうではないのです」
「?」
グリーンヒル総参謀長の答えに皆の視線が彼に集中した。どういうことだ、他に問題が有るというのか……。

「フェザーンからの撤退は帝国、同盟、両者の合意が必要となっています」
「……」
「一見するとこれは同盟にとって有利な条件に見えますが、そうとも言い切れません」

「どういうことかね」
ネグロポンティが不思議そうな声を出した。同感だ、何処が問題なのか。
「……帝国が同意しない限り、同盟はフェザーンから兵を撤退させる事が出来ないのです」
「……」

グリーンヒル総参謀長の言葉が執務室に響いた。“帝国が同意しない限り、同盟はフェザーンから兵を撤退させる事が出来ないのです”。

「つまり、イゼルローン方面で軍事的な威圧をかけられても兵の移動は出来ない、そういうことかね?」
「その通りです、トリューニヒト議長。帝国が本当に戦争を仕掛けてくるまでフェザーンからは兵力を移動できない事になります」

呻き声が聞こえた。ホアンとネグロポンティだろう、トリューニヒトは拒むかのように口を引き結んでいる。そして暫くしてから口を開いた。

「ならば最初から兵力を少なくしておけば、いや、駄目だな。それではフェザーンに威圧をかけるか、増援も両国の合意が必要だ」
「その通りです」

執務室に沈黙が落ちた。今日何度目だろう。そして皆が疲れた表情をしている。弱いと言う事がこれほどまでに辛い事だとは思わなかった。そして帝国は内乱状態にありながら、いやそれを利用して同盟を圧倒してくる。

レムシャイド伯、あの男は何処まで知っていたのだろう? 白っぽい頭髪と透明に近い瞳、沈鬱な表情、
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