プロローグ 消えゆく熱
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「っ……」
灼熱の太陽が照り付けるグラウンド。
相手投手に気を配りながら、目元の汗を右手で拭う。
――あと一勝、あと一勝で……――
全国少年野球大会への出場。
小学校に入り野球を始めた日から、それを目標に6年間毎日練習を続けてきた。
凍えるような冬の日も、茹だるような夏の日も欠かさずに。
大げさかも知れないけど、自分のすべてを捧げたであろう長かった日々。
そんな日々の頑張りもあと少しで実る、手の届く位置に求めたそれはあった。
関西予選決勝、これに勝ったら全国が決まる。
最終回1対1の同点、1アウト、ランナー3塁。
そんな一発逆転の場面。
俺は3塁ランナーとしてこの大一番に立ち合っていた。
―俺は絶対にホームに帰る!何が何でも帰ってやるんだ!―
その一心で、自分の意識を集中させ相手投手の挙動に気を配る。
ちなみに監督からの指示は特になかった。このチームの実力を信じてくれていることの裏返しだと思う。
その期待を裏切る訳にはいかないと、自分の体にまた力が入るのがわかる。
相手投手の指先からボールが離れるのをみて、大きくリードを取る。
―いつでも走れるぞ!気を向いたら奪ってやる!―
そんな思いを込めて、塁上から投手に対してプレッシャーをかける。
それは偏に、チャンスを作り出すための布石。
自分にできる事を行うことで、大きな機会を手に入れる。それは、これまでの俺の野球人生の中で身につけたものだった。
そしてそれは、次の瞬間に実る。
相手投手が、投球をするとそのボールはキャッチャーの頭上を大きく超えた。
「ゴー!!」「っ!!」
ランナーコーチの合図とほぼ同時に俺はスタートを切っていた。
目指すは唯一、ホームベースのみ。
今このときは、それだけを見てただ一直線に突き進めばいい。
ただただ前へ、前へ、前へ!!
3塁とホームのちょうど真ん中に来たあたりだろうか。
ふいにボールがどこにあるのか気になり、視線をベースからやや上へ上げ、ボールの行方を探す。
だが、情熱というものは時に人を、酔わせ判断を鈍らせる。
今この時こそが、ここを乗り越えさえすればまた一歩夢に、と。
そのまっすぐすぎる思いは、視覚を狭め重大な危険を見逃すきっかけへとなってしまう。
彼、水上和樹もその例に漏れず重大な危険を見逃していたのだ。
一心不乱に、ホームを目指す彼の目には打球が内野を抜けるほどの強い打球に見えた。
事実、打球は確かに強く内野と内野の間へと転がっていた。
しかし、打球は途中で勢いを失い内野のグローブの中に。
チームメイトやコーチ、監督は皆一様に声を張り上げ、和樹へと塁に戻る指示を出している。
でも、彼には聞こえない。彼の目は、耳は、心は、
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