2.死んだ魚の眼差しの提督 〜赤城〜
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だろ。知らんけど』という投げやりな返答が帰ってくるものだとばかり思っていた。
ところが、提督の返答は予想の斜め上だった。
「旗艦である電の判断だからだ」
「はぁ……?」
「お前たちの判断は最大限に尊重する。それが俺のポリシーだ。確かに理屈で考えれば、お前らが言うように敵を助けた上に鎮守府に連れてくるだなんてバカげてるし軍法会議モノだ。バレりゃ電は解体処分も免れんかもしれん」
「だったら、せめてこちらで何かしらの処分を下さないと……」
「だが、それが旗艦・電の判断だというのなら、それを支持し、肯定するのが俺の仕事だ」
彼が提督としてこの新しい鎮守府に着任した時、初期艦には迷わず電さんを指名したらしい。電さん本人も『なぜ電なのか分からないのです……』と不思議がっていたが、ともあれ提督が電さんに何か強い思い入れがあるのは確かだ。そんな提督だから、電さんをかばっているのだろう。私はそう思っていた。
「提督にとって特別な電さんをかばう気持ちはわかりますが……」
「いや? 今回のことが電じゃなくてお前の判断だったとしても、俺は全面的に支持するよ?」
「はい?」
「お前だけじゃない。今お前の隣で俺をぶん殴ろうと隙を伺ってる天龍の判断だったとしても、球磨でも鳳翔でも青葉でも、俺はそれを肯定するよ?」
いつになく力のこもった眼差しで私と天龍を見ながら提督はそう言った。その言葉尻には、いつものごまかしやでまかせといったものは感じられない。どうやら提督は、本心から私たちの決断は無条件で肯定しているようだ。
「海上戦闘においては俺はお前たちを全面的に信頼してる。そのお前たちの判断なら俺はそれを肯定するし、他の誰にも文句は言わせんよ」
「……まさか提督の口からそんな言葉が出るとは」
「俺の仕事はね。お前さんたちに気持ちよーく仕事してもらうことなの」
「司令部に知れたらやっかいなことになりますよ?」
「司令部にはうちの鎮守府の運営には一切口を出させん」
「そんなことホントに出来るんですか?」
「そのための提督よ? 俺なんてそんなときぐらいしか存在価値ないんだから。そこは任せてちょうだいよ」
正直なところ、このうだつの上がらない中年男性に私たちのことを司令部からかばい続けることなぞ不可能だろうと思った私だが、それは口に出さず心に留めておいた。あの死んだ魚の眼差しはなんとなく、そんな私の心を見透かしているような気もするからだ。
「それじゃあおれはちょっとお客さんの様子でも見てこようかな」
提督はポツリとそう言うと、帽子を被って席を立つ。さっきまでの幾分真剣味がこもっていたはずの彼の眼差しは、いつもの死んだ魚の目に戻っていた。うつろで何を考えているのかいまいち読めない、提督特有のあの眼差しだ。
「
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