第百十九話
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響き、ユウキのことだと納得する。そういえば、難病でVRの技術を使って治験している――ということ以外、俺たちはユウキたちのことを何も知らない。もはや今更に聞くのもはばかられるし、あちらから話さないのであれば、聞くまでもないことなのだが。
「……大丈夫?」
『大丈夫! こう見えてもボク、読書家なんだから!』
言葉とは裏腹に緊張したような声色だったが、ユウキは指定された文章を読み進めていく。それも読んでいるうちに、その緊張の色もなくなっていき、読書家というのも嘘ではないのかスラスラと読んでいく。
「ありがとうございます。では――」
そしてユウキの朗読が終わると、特にユウキについて触れる事はなく、いつも通りに授業が続いていく。それはこれからの授業を担当するどの先生も一緒であり、まったくユウキを特別扱いしていない、ただの生徒の一人だと扱っているようで。
だから普段の授業と違うのは、休み時間が来る度に友人たちがユウキの様子を見にくる程度であり、まるでユウキは最初から『ここにいた』かのように日常は過ぎて――ユウキは、それがたまらなく嬉しかったらしい。
そうして授業の合間合間に噂を聞きつけた仲間たちが来たり、数学の授業にはまるでついて行けなかったりとしているうちに昼休みとなり――俺と明日奈は、ある教室を訪れていた。
「ふぅ……」
「お疲れ様。よし、みんな頼む」
明日奈の肩に乗っていた端末が外され、和人の指示の下に工学系の生徒たちが端末をチェックしていく。自分に分かることは充電しかなかったが。
「明日奈から見てどうだ? 何か問題とか」
「ううん。素人目からすれば何も……ねぇ、翔希くん」
「ああ。……ところで、俺はなんで呼ばれたんだ?」
ほぼずっと端末を肩に乗せていた明日奈はともかく、工学系で戦力になることはない俺が呼ばれた理由。まさか素人目からの意見が聞きたい訳でもないだろうと、早速に本題に入ると、和人は苦笑しながら指をある方向に向けた。
「ちょっとユウキと話してきてくれないか? 俺はこっちで手が放せないからさ」
その指の先にあったのは、リハビリ用のアミュスフィア。どうやら端末をメンテナンスする間、ユウキはあちらの仮想世界にいるらしく、利用者がいないながらも電源がついて稼働していた。
「それなら私が……」
「いいって。疲れてるだろ? 俺はいつも使ってるし、慣れてる」
あの端末も軽いわけではなく、自分が行くと言いかけた明日奈を遮って、俺はよく利用しているアミュスフィアに手をかけた。
「明日奈、翔希のお言葉に甘えとけよ」
「……分かった。よろしくね、翔希くん」
……それに、明日奈でも出来ることにわざわざ俺を呼ぶまい。不承不承なが
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