第百十九話
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て、とりあえず電話番号やら菊岡さんのことは後にして、スメラギにその急用とやらを聞く。あちらも急用と言うだけあって急いでいるらしく、声色どころか真剣そのものな気配が、電話先にすら伝わってきた。
『今日の晩、セブンの――七色の特番がある』
「は?」
――『急用』の中身がまるで分からない俺が身構えていると、スメラギの言葉に反射的に疑問の言葉が湧く。とはいえスメラギの声色は真剣なままで、どうやら冗談を言っているわけでもなさそうだ。
『だが、今から数日、海外出張でな……録画を頼みたい』
「あ、ああ……」
ついつい口から肯定の言葉が勝手に出てしまい、電話先から安堵の声が漏れるとともに、気恥ずかしくなったのか咳払いが発せられる。
『すまない。礼は必ず後日する……ではな』
そしてこちらの返答を待つことはなく、スメラギからの電話はプツリと切れる。それほどスメラギが忙しいことの証左なのだろうが、頭の理解が追いつくことはなく、駅の階段を上りながら携帯をポケットにしまいこみ。電子マネーを改札にかざしてホームに入ると、ちょうど普段乗っていた電車が来るところだった。
「……録画予約しろよ……」
ようやくスメラギからの電話という非日常を乗り越えると、電子機器に詳しい訳ではない俺でも、そんな当然の結論に最終的にはたどり着く。しかもVR空間の専門家であるスメラギが、録画を予約出来ないほどに電子機器に疎いわけがなく。
「……というか何で録画するんだよ……」
今更ながら言いたいことがこみ上げてくるが、ホームでブツブツと呟いていても仕方がない。朝っぱらからどっと疲れた気もしたが、電車が来たので気を取り直すことにする。なにせ――
「おっはよー、翔希」
「おはよう、里香」
ホームに着いた電車には、学生服の彼女が壁に寄りかかって立っていた。共にこの電車を利用する人々と電車に乗り込むと、最後尾だった俺は閉まった扉に寄りかかった。朝のこの時分、座ることなど望めないが、扉近くの壁に寄りかかって隣に立つ里香を見て、これはこれでいいものだと実感する。
「今日も寒いわねぇ……電車内は暑いけど」
「そこら辺の調整が難しいところだな」
寒い寒いと言いながらも、電車内は暖房の効き過ぎと人口密度によって夏のようで、人混みに当たらないよう器用にコートを脱いでいく。そのままリズに倣って小さく折りたたみ、ついでに締められていたネクタイを少し緩める。
「なによ、サービスシーン?」
「誰が得するんだ、誰が」
胴体への密着ならともかくとして、首を絞められるネクタイはどうも苦手で。寒さ対策に多少は固めに縛っていたものの、やはり息苦しくて解放してしまう。
「それにあんた……ちょっと髪の毛伸びて
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