第6章 流されて異界
第154話 唯ひとりの人
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で腰かけていた形から、目の前の彼女のようにちゃんと背筋を伸ばす俺。本当ならば、彼女に握りしめられた手を、こちらの方から握り返すべき状態なのだが……。
「これから先。かなり永い付き合いになるのは間違いないけど……」
誰にも自らの感情を見せようとしない彼女が唯一、その心を見せる相手が俺。俺が彼女に抱いている感情。一番大切……と言う感情は重いと思う。しかし、唯一の存在だ、と言う言葉は更に重い。
一番が居るのなら、もしかすると二番が居るのかも知れない。今は居ないにしても、将来に現われるのかも知れない。それを無意識の内に想定して、俺の心の深い部分で彼女の事を一番だと感じていたのかも知れない。
しかし、唯一の存在に代わりなど存在しない。故に、唯一。
彼女は何も言わない。ただ、ほんの少しの不満を発して居るだけ。そして、その不満は当然だとも思う。何故ならば、これから俺が口にするのは彼女に取っては当たり前。今の彼女にはそれ以外の目的など存在していないから。
それまでの支配された生活から自由を得た瞬間に獲得した新しい目的。
しかし、俺には本当の意味でその覚悟はなかった。いや、実を言うのなら、未だに迷いはある。俺の事情に彼女を巻き込んで良いのか、と言う迷いが。
故事に曰く。輩鳥尽きて良弓蔵せられ、狡兎死して走狗煮らる。……と言う状況となる確率がかなり高い俺の運命に。
今、この瞬間、氷空を彩る大輪の花が無音のまま儚く散った。永遠と溢れ続ける湯が微かな流れを作り、それに相応しい心を落ち着かせる音色を奏でる。
そう、今ここにあるのは運命の分岐が発生する直前の……静寂の時。
「共に歩んで行ってくれるか?」
その夜遅く、俺は今度の人生で三度目の異世界の旅人となった。
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