暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第154話 唯ひとりの人
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反射的に考えて仕舞い、心の中でのみ軽く舌打ち。多分、今の俺は少しの負の感情を発して仕舞っているとは思うのだが……。
 但し、だからと言って、有希の言葉を簡単に受け入れる訳にも行かない。
 何故ならば、それは非常に危険な事態を招き寄せる可能性があるから。正直、調子に乗り過ぎれば、本来なら見えなければならない物が見えなくなる危険性が高くなる。確かにあまりにも自分を卑下し続ける事により発生する弊害はあると思う。例えば決断すべき時に、自らに自信がないばかりに決断する事が出来ず、結果、不幸な結末が訪れる事となる、など。古来、こう言う理由でチャンスをつかみ損ねた優秀な人間の例は枚挙にいとまがないほどだと記憶しているから。……が、しかし、それよりも浮かれすぎて落ち込む穴の深さ……最悪の場合、誰かの死に直結するぐらいの深い穴に陥る危険性と比べると、少々、自分の事を卑小な存在だと思い込む方が俺は安全だと思うのだが……。

 俺としては珍しい、有希の言葉を全否定するかのような思考。確かに戦いの場に身を置く事のない人間ならば、有希の言うように自分に自信を持つ事も重要だと思う。その方が、状況が良い方向に転がる可能性もあるとは思うから。
 果敢に攻めて行く方が、守りに徹するよりも光明が見える場合が多いと思うから。
 ただ、根拠の薄い自信から思考停止に陥り、結果、無理な戦いに身を投じた挙句に玉砕……などと言う、笑うに笑えない結果となる可能性も高くなると思うのだが。

 俺の場合、勝敗は兵家の常。……などと(うそぶ)く事は出来ない。俺の後ろにもう一人俺がいるのなら、そう言って一度や二度敗れたとしても問題はない、とは思う。誰かが異界からの侵略者を留めてくれるから。
 しかし、現実に俺の後ろに俺はいない。俺は一度の敗戦で俺の後ろにいる大切な人すべてを失う危険性のある戦いに身を置いているのだから。

 かなり否定的な感情に支配された俺。その俺を見つめ返す有希。その視線は強く、そして、普段の彼女からは考えられない事なのだが、少し優しく感じる事が出来た。
 そして、小さく首肯く。

「あなたに取ってわたしは一番かも知れない」

 おそらく、俺が相変わらず否定的な感情を抱いている事を理解したのでしょう。少し意味不明ながらも何か話し始める彼女。
 もっとも、普通の……俺の感情を読む事の出来ない相手。例えば、朝倉さんなどが茶化して自分の事を俺が一番だ、などと考えて居るとボケたのなら、盛大なツッコミを入れる処なのでしょうが……。
 ただ、有希の場合は間違いなく俺の感情を読んでいるので……。

 俺本人よりも――。妙な処に拘りがあり、様々な事象に囚われ過ぎて素直になれない俺自身よりも俺の感情に敏感な彼女の言葉はおそらく真実。

「でも、わたしに取ってあなたはた
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