暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第154話 唯ひとりの人
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時の有希を見捨てる事は出来ない」

 その夜の事を思い出しながら。……今の俺の経験ではない、おそらく前世の記憶だと思われる、インストールされた記憶を思い出しながら答える俺。
 そう、季節は冷たい冬の夜。玄関から一歩踏み出した瞬間、次元孔へと落ち込み、放り出されたフローリングの床。その時に出会った人工生命体の少女は、どう考えても、何処から見つめたとしても闇に染まった存在ではなかった。更に、自らの死が近付いていると言うのに、その死を淡々と受け入れようとする姿にも俺の心に訴え掛ける何かがあったのも事実。

「例え、何度同じ人生を歩んだとしても。例え、他の誰かにあの時の行いはウカツだった。もっと慎重に考えてから行動した方が良かったのでは、と言われたとしても、俺は同じ判断を下すと思う」

 良く分からないが、彼女と契約を交わした理由はこんな感じだと思う。確かに俺の式神契約には強い拘束力はないので、目の前に現われた相手が俺に隙を作らせる為に本性を偽る可能性もゼロではないが……。
 ただ、そもそも、俺の見鬼の才は表面上を取り繕った程度で本性を見抜けないような物ではない。基本的に悪意に染まった相手からはどす黒いオーラのような物が発散されているので、そう言う相手からは俺の方から少し距離を取るので……。

 俺の答えを聞いて小さく首肯く有希。ただ、これは当たり前。俺は同じような言葉をこれまでも何度か口にして来た以上、今までの言葉にウソがなければ、今宵も同じ答えが返されて当然。
 ならば、何故、同じ答えが返されると分かった上で、彼女は……。

「わたしは強い疑問を感じながらも、朝倉涼子が暴走すると言う欺瞞を何度も何度も見続けて来た」

 普通に考えるのなら彼が過去に溯り、呼び出されてから間がないわたしに対して未来の情報を渡した瞬間に、それまで得て居た信頼を一瞬の内に失って仕舞う可能性がある事に気付きながらも……。
 淡々と自らの過去に関する事柄を話し始める有希。

「永遠にループし続ける夏休みに関しても同じ」

 わたしには時間がループしている原因と、その解決方法を知っていながら、思念体の命令に従い、ただひたすら観察と外界からの干渉の排除にのみ自らの能力を使用する事しか行わなかった。出来なかった。

「でも、今になって分かった事がある」

 あの時、わたしは不満を感じていた。ループする時間に対して何も対処する事の出来ない自分に対して。対処する事を命じない情報統合思念体に対しても。
 そして、そのループを発生させている元凶に対しても。

「その事が後の十二月に起こす事件の遠因となったのは間違いない」

 確かに彼女が語る内容は彼女自身の過去に関係する内容……だと思う。それに何となくだが、彼女が言いたい事が理解出来た……様な気
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