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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第154話 唯ひとりの人
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 ふり仰げば、其処には蒼き偽りの女神。
 雲ひとつ存在しない今宵、彼女は地上に向けてその冷たき美貌に、何時もより相応しい蒼銀(ぎん)の微笑みを放ち続け――
 視界の端では、今を盛りとばかりに咲いては散って行く冬の華が、藍に染まった氷空に思い思いの色を着けて行く。
 そう、それは正に幻想世界の出来事。音のない世界に繰り広げられる……まるで水族館の水槽の中を外から覗き込んでいるような。現実に同じ世界に存在しているはずなのに、何故か世界の外側から別の世界を覗き込んでいるかのような孤独を感じさせられる蒼の世界の映像。

 俺がすべての言葉を口にする直前、彼女は俺の右手に自らの左手を重ねて来た。視線は正面、今まさに小さな緑が消えて終った空間を映しながら。
 現実に其処に存在していながら存在感が希薄で、妙に作り物めいた彼女に相応しい小さな手。普段はひと肌の温もりを伝えて来る事さえ稀な彼女の柔らかな手が、今は少し――

「あなたには感謝をしている」

 そっと重ねられた彼女の手。普段通りの小さな……俺に聞こえたら十分だと言わんばかりの聞き取り難い、非常に小さな声で話し始めた彼女が何故かそうする事を望んでいるかのように感じられ、俺は重ねられた自らの手をひっくり返し――

「最初からあなたはわたしの事を人間として扱ってくれた」

 その事がわたしに取ってはとても新鮮だった。
 手の平を合わせた形で繋がれる彼女の左手と俺の右手。指と指を絡ませ合い――

 でも……と、短く、まるでため息を吐くかのように小さく続ける有希。
 ただ、でも?

「でも、あの頃のわたしは矢張り、人間ではない、単なる創造物に過ぎなかったと思う」

 言葉の意味に大きな陰の気配を感じ、彼女の顔を改めて強く見つめる俺。その一瞬の隙間に発せられる彼女の言葉。
 その端整な横顔に浮かぶのは普段通りの無。但し、見様によってそれは喜怒哀楽。そのすべての感情を浮かべる事にさえ()んだ、そう言う、疲れ切った、何もかもを諦めて仕舞った者が浮かべる表情のようにも感じられた。

 これはマズイ……のか?
 そう考えを回らせる俺。確かに今、彼女の状態は微妙な感覚だと思う。言葉の意味はどう聞いても陰の気配……ややドコロか、かなり大きな負の感情から発せられた台詞としか思えない内容。しかし、今現在の有希が発している気配はむしろ陽の気。前向きで、未来を見つめている人間が発している気配に近い。

「そんな哀しい事は言うなよ」

 矢張り、自然の気配などではない、人の感情を完全に把握するのは難しいか。そう考えながらも、先ほどの彼女の台詞を打ち消す俺。確かに、今現在の彼女が発している雰囲気が悪い物ではない。悪い物ではないのだが、それでもそのまま聞き流すにしては矢張り重すぎる意
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