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第二十五話

                第二十五話  アヴェ=マリア
 先生の歌、それは清らかでゆっくりとした曲であった。華奈子はその曲をはじめて聴いたのであった。
「この曲って」
「英語!?いえ、違うわね」
 梨花は何語で話しているのか、それすらもわからなかった。
「けれど。奇麗な曲ね」
「そうね。この曲って」
 赤音と美樹にわかるのはそれだけである。春奈が首を傾げさせた。
「何で曲なんだろう」
「アヴェ=マリアよ」
 美奈子がそれに答えた。
「アヴェ=マリア!?」
「そうよ。これはイタリア語ね。ヴェルディの曲なのよ」
「そうだったの」
 ヴェルディ最晩年の最高傑作の一つ『オテロ』第四幕において歌われる曲である。あまりにも美しく、そして悲しい曲である。先生は今それを歌っているのである。
「まさかこの曲なんて」
 美奈子は先生がこの曲を歌えるということが意外だったのだ。
「凄いわ、先生」
「凄いのは歌だけじゃないわよ」
 華奈子が言った。
「えっ」
「ほら、見て。先生を」
 先生を見るように言う。すると先生の身体の周りに光の玉が漂いはじめた。
 一つが二つ、そして三つになっていく。まるで天使達の様に先生の周りを漂う。神々しい姿であった。まるで先生が天使、いや聖母であるようにさえ見えた。
 歌が終わった時同時に光も消えた。歌い終え満足気な顔の先生を見て六人は何と言っていいかわからなかった。
「どうでしたか、皆さん」
 先生は六人に対して問うてきた。
「久し振りに歌ったので自信がないのですけれど」
「いえ、そんな」
 まず美奈子がそれを否定した。
「こんな歌が聴けるなんて。それに」
「魔法が。本当に奇麗で」
 次に言ったのは華奈子であった。
「嘘みたい、本当にあったなんて」
「オーバーですよ、それは」
「いえ、本当に」
「夢だったみたいで」
 他の四人も同じであった。皆あまりもの歌と魔法の調和に呆然としているのである。
「これが歌と魔法なんですね」
「はい」
 先生はその質問には応えた。
「如何でしょうか」
「何か自信なくしちゃいました」
 華奈子の言葉にはいつもの元気はなかった。
「何か」
「どうしたんですか?」
「先生みたいになれるかなあって。無理ですよね」
「なれますよ」
 だが先生は華奈子に対してこう述べた。
「なれますか?」
「ええ」
 またにこりと微笑んだ。そして六人に対して話をはじめるのであった。


第二十五話   完


               2006・11・1



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