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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十四話 囚われ人
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る女、野心も露わに出世する弟。危険だと判断するには十分だったのだろう。単純に嫉妬と考えた俺やリヒテンラーデ侯が馬鹿だったのか……。

“女とは分からぬものじゃ”
リヒテンラーデ侯の言葉だ。全く同感だ、女とは分からない事が多すぎる。

『エーリッヒ、オーベルシュタインはこれで終わりかな?』
何処と無く不安げな表情でキスリングが尋ねてきた。気持は分かる、俺も不安だ。痛い目にあっているからな。

「どうかな、そうだと良いんだが……」
『……』
「私は失敗したのかもしれない」
『失敗? 何を』
キスリングが不思議そうな顔をしている。違うんだ、キスリング、今回の逮捕劇の事じゃない。

「劣悪遺伝子排除法さ、あれを早い時期に廃法にすべきだった」
『しかし、あれは』
「分かっている。ルドルフ大帝の作った法だ、それに有名無実化している。あえて廃法にする必要は無い、そう言いたいんだろう、ギュンター」
『ああ』

「でもね、ギュンター、あの法を廃法にしておけばオーベルシュタインは反逆者にならずに済んだかもしれない」
『……』
キスリングが驚いた顔をしている。

「ブリュンヒルトで彼が言っていたよ、ルドルフ大帝の時代であれば劣悪遺伝子排除法によって赤ん坊の頃に抹殺されていた。ルドルフ大帝と彼の子孫と彼の生み出した全てのものを……ゴールデンバウム朝銀河帝国そのものを憎んでいると」
『……』

「彼は馬鹿じゃない。帝国がルドルフ大帝の帝国から新しい帝国へ変わろうとしている事は十分に分かっていただろう。それなのに反逆者への道を選んだ、何故だと思う?」
『……』

「クーデターの成功の可能性は決して高くは無かった。それも彼は分かっていたはずだ」
『……劣悪遺伝子排除法か』

「そうだ。彼にはあの法が放置されたままだったのが許せなかったんじゃないかな。あの法こそがルドルフ大帝の統治の基盤だった。遺伝子こそが全て、血統こそが全て、馬鹿げた話だ」
『おいおい、不敬罪だぞ』

キスリングがおどけたような口調で俺を窘めた。分かっている、外ではあまり大きな声では言えない事だ。しかし間違っているとは思えない。あの劣悪遺伝子排除法によって共和主義者たちは反逆者とされた。

彼らは帝国を脱し自由惑星同盟を創り、百五十年に亘って帝国との戦争を続けている。史上最大の悪法だろう。俺はルドルフに対して敬意など欠片も抱く事が出来ない。

「彼がどれ程優秀さを発揮しても彼の周囲はそれを認めなかった。彼を認める前に忌諱した。“赤ん坊の頃に抹殺されていた”、実際にそう言われた事があるのかもしれない。卿ならどう思う」
『それは……、憎むだろうな、全てを』

「お前はいらない子だ、生まれてはいけない子だと言われているようなものだ。帝国が自分を
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