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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十四話 囚われ人
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、卿に起されたおかげで碌に寝ておらん、少し、いや大分疲れたわ。じゃが休むわけにもいかん、皆に話さねばならんからの』
「……あまり無理はしないでくださいよ、侯に倒れられては困ります」

俺の言葉にリヒテンラーデ侯は軽く苦笑を浮かべた。
『夜中に叩き起こしておきながら、何を言うやら』
「申し訳ありません」

『責めておるのではない、私がその立場でも同じ事をした。良く気付いてくれた、礼を言う』
老人が頭を下げた。珍しいこともあるものだ。

「……いえ、もっと早く気付くべきでした。反省しております」
『随分と殊勝じゃの』
「そちらこそ」

お互いに苦笑していた。分かっている、こうして苦笑できるのも皇帝フリードリヒ四世が生きていればだ。万一の事があれば大混乱だったろう。あの我儘小僧が皇帝になるのかと思うと寒気がする。

リヒテンラーデ侯との通信が終った後は、ギュンター・キスリングが連絡を入れてきた。ヴァレリーが怖い眼で俺を睨んでいる。寝不足は俺も同じなのだ、心配なのだろう。

もう少し待ってくれ、これが終れば俺も少し休む。ちなみに俺は今自室に居る。本当なら自室に女性士官が居る事は困るのだが、相手がヴァレリーだ、まるで気にしない。以前、“自分も男だから少しは遠慮してくれ”と言ったら鼻で笑いやがった。とんでもない女だ。

ギュンター・キスリングがスクリーンに現れた。大分疲れているようだ、げっそりとした表情をしている。
「大変だったみたいだね、ギュンター」

『簡単に言わんでくれ、とんでもない騒ぎだった』
「……」
はて、別に皇帝が同衾していたわけでもないし愁嘆場があったわけでもないはずだが……。

『伯爵夫人の部屋を調べるんだ、女性兵士を緊急招集したが、みんなブウブウ文句を言ったよ。無理も無い、夜中の三時だ、恋人と一緒のところを呼び出された奴もいる。薬が見つかったから良かったが無かったら暴動が起きていたよ』
キスリングが肩を竦める。やれやれだ、此処でも俺は愚痴を聞く係りか。

「そうか、随分と迷惑をかけてしまったが、ローエングラム伯の逮捕と合わせる必要があったからね、止むを得なかったんだ」
『分かっているさ。皆文句は言っても納得はしている』

「伯爵夫人は抵抗したのかい?」
『いや、それは無かった。うすうす覚悟はしていたようだ』
「……」
キスリングが神妙な表情で答えた。覚悟をしていたか……。

『逮捕された時、ローエングラム伯とキルヒアイス准将の事を尋ねてきたよ。逮捕されたことを伝えたが……』
「伝えたが?」
『キルヒアイス准将が卿をあの薬で暗殺しようとした事を知って驚いていた。哀れな話だ』

キスリングが遣る瀬無さそうにしている。俺も同感だ、全く遣り切れない、なんとも後味の悪い事件だ。
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