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フロンティアを駆け抜けて
北風と太陽
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となんだか心が、ぽかぽかする……)

普通に考えて出会ったばかりの男にそのような気持ちを抱くのは不自然なことだったが、ジェムは沈んだ心を癒してくれるなら何でもいいと思った。アマノは、まだ歩調がおぼつかないジェムに合わせ、ゆっくりと歩いてくれている。その心遣いもまた、怖いくらい気持ちがよかった。

「……もう少しで手に入ったのに。目障りなんだよ……メガガルーラ、岩雪崩」

残されたダイバは、忌々しげにアマノを見る。追いかけたかったが、ポケモンが眠ったのを好機とトレーナー達がバトルを仕掛けてくるのでそうはいかなかった。それらを岩石の奔流で怯ませていきながら、遠ざかる二人を見ていた――




「なるほど……チャンピオンの娘らしくありたいのに上手くいかない、ですか」

ジェムはアマノの使っている部屋まで通され、ポケモンを回復してもらい落ち着いた後、ソファに座らされて彼に今の自分の状況と不甲斐なさを偽りなく話していた。彼になら、何でも話せるような気がしてしまう。部屋に入ることにも、何ら抵抗感はなかった。だがそれを疑問に思うことが出来ない。

「あの少年はあなたに才能がないなんて言いましたが、私はそんなことはないと思いますよ。ブレーンとのバトル、そしてメガシンカは素晴らしかった」
「でも私……負けちゃった」

あくまで自分の敗北が許せないジェム。傲岸な心の壁を優しく溶かすように、アマノは言う。

「いいじゃありませんか、負けても」
「え……?」
「あなたはまだ若い。確かにあなたの父親は今は無敗の絶対王者かもしれませんが、果たして昔からそうだったのでしょうか?私はそうは思いませんね」
「……でも」
「あなたには父親と同じ人々を魅せる実力がある。それは間違いないですよ。ただ――あなたは、張り詰め過ぎているのではないでしょうか?」

アマノの黒い瞳はジェムのオッドアイを見つめてゆっくりと語る。

「あなたはまだまだ不完全で歪な原石。これから研磨されてゆけば美しい輝きを得るでしょう……ですが常に自分に負荷をかけ続けていれば、宝石として完成する前に壊れてしまいます。今のあなたは壊れかかっているんですよ。少し休んで、他の事を考えた方がいい」
「……はい」

普段のジェムならそんなことはないと一蹴しただろう。チャンピオンの娘として自分を磨かなければいけないのだと。だがアマノの言う通り、今のジェムの心は限界に近かった。

「でも私……どうしたら」

だがジェムは今までずっとポケモンバトルに明け暮れてきた。それに疑問を持つことはなかったし、それを楽しんでいた。だから、他の事と言われても困ってしまう。教えを乞うジェムに、アマノはジェムの顔に手を伸ばして、唇の横をくいっと吊り上げた。



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