北風と太陽
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バトルが始まる。だがその内容は酷いものだった。強力なポケモンとメガシンカを使いこなすダイバに、ジェムはほとんど手も足もでない。ラティアスのミストボールさえも、メタグロスの特性『クリアボディ』の前には無力で、あっさりと組み伏せられ甚振られていた。
ダイバは膝をつき泣きながら許しを乞うジェムを帽子の陰から見下す。
「……何がお父様の娘だ。何が絶対負けないだ」
そして彼女を心を嬲るように言った。
「君、ポケモンバトルの才能ないよ」
「――――!!」
その言葉に、ジェムが何も言い返せずに泣き崩れる。周囲のトレーナー達に哀れむような眼を向けられているのがとてつもなく惨めに感じた。
(私は、お父様の娘に相応しい、皆に尊敬されるトレーナーでなきゃいけないのに……)
ジェムの心が真っ黒になって、瞳の輝きがくすんでいく。自分の弱さと情けなさに絶望しかけた、その時だった。
「そこの少年、女の子をいじめるのは感心しませんよ?」
二人の間に割って入ったのは肩までかかる黒髪の一部だけを赤と白で染めた三十歳前後、長身痩躯の男性だった。となりにはイカをひっくり返したようなポケモン、カラマネロを連れている。
「何君、邪魔なんだけど……」
「邪魔にし来たからね。少年も女の子と『ポケモンバトル』をすると約束したのでしょう?今少年がやっているのはバトルではなく暴力です。それはいけません」
「うるさいよ……メタグロス、バレットパンチ」
露骨に不機嫌さを現し攻撃を命じるダイバ。だがメタグロスは動かない。
「私は争いを望みません。――というわけで、君たちのポケモンには催眠術をかけさせてもらいました。カラマネロの催眠術はポケモンの中でもトップクラス。一度かかればなかなか起きませんよ」
「……」
気づけばダイバの隣のサーナイトまでが眠ってしまっている。ボールに戻して、新たにガルーラを呼び出すが、相手はただ者ではないと判断しこれ以上攻撃はしなかった。
「さ、お嬢さん。こんな暴力的な子の言うことを聞くことはありません。ひとまず、ポケモンをボールに戻してあげましょう?」
男性がジェムに呼びかける。ジェムは無言でラティアスをボールに戻した。蹲っているジェムに男性は手を差し伸べる。
「私の名前はアマノ。さあ、まずはポケモンを回復させないといけませんね。――全てのポケモンが戦闘不能とあっては一人では危険でしょう。ついてきてください」
ジェムはその手を取り、立ちあがる。何故だかこの男――アマノの言うことは、すっと心の奥に入ってきて、警戒する気が起きなかった。ダイバがジェムを冷たく吹き付ける北風なら、アマノは温かく心を照らす太陽のようだった。
(この人を見る
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