第三章
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「男の人で声が高いとテノールになります」
「テノールっちゅうと」
「ああ、確かあれやな」
この言葉にだ、みのるもまことも二人で顔を見合わせて話した。普通にそうしていても正反対であることが絵になっている。
「ドミンゴとかカレーラスとか」
「あっちの世界でスターやな」
「主役の声であることが多いです」
実際にそうだというのだ。
「テノールは」
「やっぱりそうか」
「スターの声やな」
「はい、ですが」
それでもというのだ。
「小坂さんはです」
「ソプラノか」
「テノールよりもさらに高い」
「何や、わしそんな声やったんかいな」
「非常に珍しいです」
こうまで言うのだった。
「まさか実際にそうした人と出会えるとは」
「何かわしえらい珍しい人みたいやな」
「そやな」
またここでだ、みのるとまことは二人で話した。
「ただのチビでデブや思うてたのに」
「声もかいな」
「めっちゃ高くて」
「レアものやったんやな」
「しかも歌もお上手ですね」
技量も備わっているというのだ。
「これは凄いCDになりますよ」
「何や、思わぬ展開になってきたな」
みのるはレコード会社の者の言葉に目を瞬かせ困惑の顔になって言った。
「わしそんな珍しい人間やったんか」
「そうみたいやな」
まことはそのみのるの横で腕を組んで言った。
「ピンだけでいけるレベルか」
「そうかもな、ってわしだけやったらや」
みのるはまことに応えて今度はこう言った。
「ただの珍獣や」
「珍獣はただのか?」
「そや、チビでデブで」
「声の高いか」
「それだけの珍獣や」
「珍獣自体が凄いことやろ」
まことはみのるに話した。
「そもそも」
「それもそやな」
「それにそう言うたらな」
「言うたら?何や」
「珍獣を使う珍獣使いが必要やろ」
「それはわしか」
「そや、そもそも御前も珍獣やぞ」
まことにしてもというのだ。
「変にでかくて痩せてて色の黒い」
「それが珍獣か」
「そや、二人で珍獣や」
「何かそう言われると微妙やな」
「微妙でも何でもや」
それこそとだ、さらに言うまことだった。
「わし今はそうした気分や」
「微妙か」
「どうもな」
「珍獣って思うてか」
「ああ、後な」
「後?」
「わしこの声でずっと困ってたんや」
珍しいと言われたその高い声がというのだ。
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