第五章
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「もう隠居だからな」
「東ドイツもないですし」
統一の結果としてだ。
「それで」
「だからだ、そこはな」
「あえてですね」
「言わないがな」
「それでも」
「そうだ、わかった」
ペーターから話を聞いてハンナの写真を観てだ。
「何をすればいいかな」
「どうしたら僕の恋路が実るのか」
「これ位出来ないとだ」
それこそというのだ。
「務まらなかったからな」
「そうでしたか」
「昔はこんなことをするのもだ」
過去は隠しているが言ったのだった。
「因果と思っていたがな」
「それでもですね」
「まさかここで、統一して隠居して役に立つとはな」
「思いも寄りませんでしたか」
「正直に言って奇麗なやり方じゃない」
何も知らない女性をたぶらかして情報を手に入れる、これを奇麗な方法とはお世辞にも言えないことは自分でもわかっている。
それでだ、クライストはペーターにこうも言ったのだ。
「下衆な仕事をしていると思っていた」
「女性を騙して、ですからね」
「これが政治と言えばそれまでだが」
「ヒモみたいなことをしていたんですね」
「給料を貰ってだ」
東ドイツ政府からだ。
「そうしていたからな」
「国家がヒモを動かしていたんですね」
「わしはその一人だった」
「そうでしたか」
「だから女の子のことはわかる」
「一目で」
「脈があるか、どうした娘でどうした男がタイプか」
そうしたことを全てというのだ。
「見てすぐにわかる様になった」
「ロミオだったから」
「そうだ、そして統一して後はベルリンで肉体作業をしていたが」
「定年になって」
「年金生活になってハンブルグに来て後は婆さんと二人で死ぬまでと思っていた」
もっと言えば死ぬのを待つだけだった。
「これでもキリスト教だからな」
「天国にですね」
「いやいや、悪い女たらしは地獄だ」
「そう言いますか」
「そう思っていた、しかし御前さんにな」
「お陰で助かりました」
「人助けになるとはな」
また言ったクライストだった。
「全く、こんな技がな」
「本当に思いも寄らなかったんですね」
「たらしの技なんてものがな」
「いや、本当に助かりました」
ペーターは偽らざる気持ちを述べた。
「有り難うございます」
「わからんな、世の中は」
「これからも何かあればお話をして下さい」
「では生きている限りな」
そうさせてもらうとだ、クライストは答えた。自分のアドバイスに素直に感謝の気持ちを述べているペーターに対して。
たらしも使いよう 完
2016・8・13
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