第一章
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たらしも使いよう
ドイツ民主共和国、俗に東ドイツと言われていたこの国に生まれ育ったヨハネス=クライストは今はハンブルグに居を構えて余生を過ごしている、年金があるので気楽に過ごせてしかも食べものが美味そうだという理由でハンブルグに移って妻のエヴァと共に暮らしている。
隠居なので特にこれといって仕事もなく悠々自適の生活だ、アパートにおいてだ。
実に快適に暮らしていた、しかし。
ある日同じアパートに住む少年ペーター=プライが難しい顔でアパートに戻ったのをたまたま見てだ、彼に尋ねた。
「どうしたんだい?」
「あっ、クライストさん」
ペーターはクライストにその浮かない顔を見て言葉を返してきた。
「元気そうだね」
「わしは元気だ」
髪の毛はすっかり白くなったが量は変わらずオールバックにしている、背筋はしっかりしていて長身でやや腹が出ているが老いは然程感じられない顔だ、皺の多い高い鼻の顔は端整でグレーの目の光はしっかりしている。
その顔でだ、ペーターの背は高いがいささか猫背になっていてそばかすのある青い目の顔を見て答えた。
「この通りな」
「それは何よりだね」
「病気は痛風しか持っていないしな」
「いや、痛風はまずいだろ」
すぐに返したペーターだった。
「そうした人多いけれどさ」
「ドイツだからな」
笑って返したクライストだった。
「ビールにソーセージ、ベーコンにジャガイモにはバターが欠かせない」
「皆食べてるしな」
ドイツではだ。
「ハンブルグでもな」
「アイスバインもだな」
「肉とビール多いからな」
「ビールは東でもよく飲んでいたぞ」
彼が中年の時に統一してもう二十五年以上経っている、学生のペーターが生まれるよりも前の話である。
「だからな」
「クライストさんも痛風か」
「しかしそれ以外は健康だ」
「痛風の時点で問題だけれどね」
「ははは、痛いぞ」
痛風は、というのだ。
「最悪だ」
「全然健康じゃないんじゃ」
「だからそれ以外は健康だ」
「そうなんだ」
「そうだ、それでだが」
冗談で話をほぐしてからだ、クライストはペーターにあらためて尋ねた。
「悩んでいる様だな」
「それはね」
痛風での冗談で気持ちがほぐれていてだ、ペーターも素直に話せた。
「実は悩みがあるんだ」
「確か御前さんは勉強が得意だったな」
「あっ、そっちは問題ないよ」
ペーターもこう返す、多少ボサボサの金髪を左手でかきながら。
「至ってね」
「優秀か」
「大学に行って法学を学んで連邦政府の官僚になるんだ」
ペーターは自分の夢も語った。
「そうなるからね」
「勉強はしていてか」
「そっちは満足出来ているよ」
自分でもというのだ。
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