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クローンといえど
第五章

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「確かに凄いことがわかりましたね」
「そう、ではね」
「論文にして学会に発表ですか」
「そうするとしよう」
 明るく言う博士だった、そして。
 博士は実際にこの実験を論文にして発表した、すると学会では大きな反響が起こった。
 その状況を見てだ、山村は博士に言った。
「いや、凄いことになっていますね」
「私の予想通りだよ」
「博士のですか」
「そうだ、人は先天的になるものではなく」
「教育、環境でですね」
「なるものだ」
「ヒトラーやスターリンにしても」
「独裁者にはならないのだ」
 環境や教育次第でというのだ。
「ベーブ=ルースをサッカー選手にも出来る」
「イメージじゃないですね」
「それもストイックなな」
 ビールとステーキ、アイスクリームに目がなかった彼であるがだ。
「そうした風にも出来る」
「ベッケンバウアーをオペラ歌手にも出来ますか」
「オットー=クレンペラーを謙虚で無口で女性に清潔な紳士に出来る」 
 傲岸不遜で毒舌家で今で言うとセクハラと不倫三昧であった彼でもというのだ。ナチスが彼をユダヤ系の見本とプロパガンダしたなら大変なことになっただろう。
「教育次第でな」
「あのクレンペラーでもですか」
「それが出来るのだ」
「まさかここまでとは」
 山村も唸って言った。
「思いも寄りませんでした」
「ヒトラーでもスターリンでもな」
「こうして聖職者にもなる」
「そうだ、クローンも然りだ」
 最初は真っ白な彼等もというのだ。
「教育次第でどうにでもなる」
「そういうことですね」
「独裁者、悪人を生み出すものは教育であり」
 博士はこうも言った。
「生み出さないのも教育という訳だ」
「わかりました、ただ」
「ただ、何だ?」
「何かマッドサイエンティストらしからぬ言葉ですね」
 世間の博士への評価から言った指摘だ。
「これはまた」
「ははは、そういえばそうか」
「クローンを実用したことはともかくとして」
「マッドサイエンティストでも倫理はあるのだよ」
「そういうものですか」
「左様、美学という倫理がな」
 マッドサイエンティストの倫理はそれだというのだ。
「あるということだよ」
「じゃあこれからも美学に従って」
「研究をしていくとしよう」
「博士がそうなったのも環境によってですか」
「実は芸術も好きでな」
 そのせいでというのだ。
「美学は大事にしておる」
「まあ世を乱すことだけはしないで下さいね」
「美学に従えばな」
 山村にこう返してだった、博士は次の研究にかかった。世の中に教育そして環境の重要さを提示したうえで。


クローンといえど   完


                        2016・6・21
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