第一章 天下統一編
第三話 秀清との密約
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秀清が荷車に積まれた荷物の運び出しを人足達に手際良く指示を出していく。
俺は忙しく働く秀清から庭に目を向けた。庭木や砂利を見ると日の光で淡い橙色に染まっていた。八つ半(午後十五時)位か。
俺が庭を眺めていると視線を感じた。俺は視線を感じる方向に顔を向ける。そこには下人、九蔵とリクの二人がいた。二人は俺と視線が合うと気まずそうに視線を落とす。
二人とも俺の指示を待っているのだろう。俺が二人の主人だからな。俺の指示無しで勝手に引越しの手伝いをして、それを俺に咎められるとでも思っているのだろうか。
「二人は何処の生まれだ?」
気まずい空気を和やかにしようと、俺は二人に話題を振ってみた。
「尾張中村の生まれです」
「京の生まれです」
九蔵は秀吉と同じ出身か。リクは京生まれ。二人とも格好からして裕福そうには見えない。九蔵は貧農の出身、リクは貧しい市井の出身だろうな。九蔵の年齢なら所帯を持っていてもおかしくない。それなのに俺のところに奉公に来ていることを考えれば何となく事情は察することはできる。リクも嫁に出ていてもおかしくない歳に見えるんだがな。
「九蔵は中村の生まれか。私は近江の生まれだが、父は尾張の生まれだ。同郷の誼だ。九蔵、これからよろしく頼むぞ」
「殿様、よろしくお願いします」
九蔵は俺に恐縮しながら頭を下げた。
「リクは兄弟姉妹はいるのか?」
「兄一人と弟二人と妹一人です」
リクは両手を使って数えながら俺に答えた。
「妹がいるのか。私の兄弟は八人いるが全員男ばかりでな」
俺は笑顔で答え九蔵の方を向いた。
「九蔵は兄弟姉妹はいるのか?」
「兄が二人と弟が一人います。後は姉が一人います」
俺は九蔵とリクから兄弟姉妹の話を聞きながら、俺の兄弟の多さを実感していた。でも、織田信長の子供は俺の兄弟の倍以上いたらしい。上には上がいるということだ。
俺が九蔵とリクに兄弟姉妹の話を聞いていた理由は下人補充のあてを探せないかとふと思ったからだ。五千石の大身である俺の屋敷で働く下人が二人じゃ少ない。もっと人数を増やす必要があるから、この二人の働きぶりを見て俺の屋敷に奉公できそうな年齢の者を紹介してもらおうと考えていた。
九蔵とリクは下人の補充の皮算用をする俺を不安そうに見ていた。俺は慌てて平静を装い笑顔で彼らを見た。
「九蔵とリク。私について来てくれ」
俺は二人に命じ、先程まで秀清が居た荷車が止められた場所に向かった。のんびりと歩く俺を余所に人足達は慌ただしく荷物を降ろしていた。その俺の後を九蔵とリクが付いてくる。
俺は人足達の邪魔をしないように距離を取って荷物を吟味していった。時折、俺に黙礼して通り過ぎる若い武士が数人いた。彼らは人足達に
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