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雰囲気
第四章

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 そのウイスキーを一口飲んでだ、広良は言った。
「こんな酒昔はなかったな」
「昔の中国にはね」
「ああ、しかしな」
「しかし、よね」
「ウイスキーも美味な」
「そうよね」
「それもロックだ」
 見れば二人共ロックである、透き通った褐色の酒の中に氷があるが氷が割れてカチンとした音も聞こえた。
「これがいいんだよ」
「中国らしくない」
「その雰囲気がいいんだよ」
「何かね」
 秋姫もそのウイスキーを飲みつつこう言った。
「退廃的よね」
「夜だと特にな」
「上海はね」
「特にこの辺りはな」
「悪いことをしている気持ちになるわ」
 また一口ウイスキーを飲んでだ、秋姫はまた言った。
「こうしていたら紅衛兵に捕まるかしら」
「文革だとそうなってたな」
「絶対にね」
「俺達は走資派か」
「西洋の資本主義に染まった」
「それで総括だな」
「そうなってたわね」
 文革のことは表立っては言われない、しかしあくまで表のことであり二人もどういったものかは聞いている。他の中国人達もそれは同じだ。
「絶対に」
「そうだな」
「ええ、けれど今はね」
「そんなことはないからな」
「こうして飲んでいてもね」
「全然何ともないさ」
「そうよね」
「だからいいんだよ、こうしていても」
 広良はウイスキーをまた一口飲んで言った。
「疎開地だった場所に夜いてバーであっちの酒飲んでもな」
「スーツを着てね」
「いいんだよ、それで今夜はどうするんだ?」
「二人共明日はお休みでしょ」
 仕事はとだ、秋姫は言った。
「そうでしょ」
「ああ、あんたもだよな」
「じゃあ朝まで飲みましょう」
「こうして飲み歩くんだな」
「一杯ずつでもね」
「面白いな、それも」
 グラスを右手に持ってその中の酒と氷を見ながらだ、広良は笑って返した。氷が酒の中で溶けだしているのが店の薄暗い照明の中に照らし出されている。
「給料入った後で金もそこそもあるしな」
「一杯一杯飲みながら」
「そうしていくか」
「朝までね」
「そうするか、じゃあこの店の後はな」
「何処に行こうかしら」
「またバーに行くか」
 こう秋姫に言うのだった。
「そうするか」
「今度はどのお店にするの?」
「カクテル飲んでウイスキー飲んで」
 広良は今飲んでいるウイスキーの話もした。
「それじゃあ次はな」
「ワインとか?」
「ワインにするか」 
 こう言うのだった。
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