第三章
[8]前話
「鏡は魂や未来を映すともいうしな」
「では」
「私は近いうちに死ぬのか」
リンカーンは自分から言った。
「そうなるのか」
「それは」
「そうなってもだ」
それでもと言うのだった。
「おかしくない」
「お身体にお気をつけ下さい」
メアリーは夫の言葉を聞いて不安になりだ、心配でいたたまれなくなって彼に言った。
「少し休まれて」
「そうすべきか」
「戦争が終わりましたら」
「過労には気をつけないとな」
「そうです、そして周りにもです」
「暗殺か」
「若しかして」
周囲を気遣う様にしてだ、メアリーは夫に言った。
「あなたに敵意、悪意を持つ人が近くにいるかも知れません」
「そうだな、南部人等にな」
「ですから」
「警護を固めるか」
「そうしていきましょう」
「それがいいな」
リンカーンは妻のその言葉に頷いた。
「ではな」
「はい、その様に」
「夢は夢だ」
現実のものではない、リンカーンはこのことは理解していた。
しかしそれと共にだ、こうも考えていて言うのだった。
「しかし正夢ということもある」
「そのことは否定出来ませんね」
「だからだ」
「このことは、ですね」
「私への警告として注意しよう」
妻の言葉を受け入れてだ、リンカーンは自身への警護体制をこれまで以上に厳重にすることにした。だが。
妻と共に観劇をしている最中にだ、部屋への扉を守っている警備員はいい加減な輩で持ち場を離れている時にだった。
暗殺者が来て彼を後ろから撃った、その一撃は致命傷であった。
リンカーンは血の海の中でだ、蒼白になった顔で自分を見ている妻に顔を向けてそのうえで言ったのだった。
「鏡と夢は予知だった様だな」
「まさか・・・・・・」
メアリーは蒼白になったまま夫の最後の言葉を聞いた、そして彼が死んでいくのを見た。その時の顔は鏡に映っていた顔と同じであった。それからのことは夢と同じであった。
不吉な夢 完
2016・3・14
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