第二章
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「我々の勝利でな」
「はい、南部同盟も粘り強かったですが」
「もう限界だ」
「やはり徹底してです」
先程とは別の側近が言う。
「焦土戦術を行ったことが効いています」
「シャーマン将軍が提案しただな」
「そうです、敵の産業を根絶する」
「海への進軍だな」
「犠牲も多いですが」
南部同盟の市民達にだ、元々北軍は市民への犠牲を止むを得ないと割り切ってこの戦争を戦っている傾向が強かった。
「しかしです」
「それでもだな」
「戦争はあの作戦によってです」
「終結が決定したな」
「我々の勝利で」
「ならばだ」
リンカーンは言った。
「それでよしとしないとか」
「ならないですね」
「市民への犠牲はな」
「やはり」
「出来る限りは出すものではないが」
「ですが勝利の為には」
側近も言う。
「どうしても、です」
「止むを得ない、だな」
「戦争が長引けばそれだけ多くの犠牲が出ます」
「だから小さな犠牲か」
「その多くの犠牲よりもだな」
「そうなりますので」
「あの作戦は行うしかなかった」
リンカーンは沈痛な面持ちで言葉を出した。
「そういうことか」
「はい、南部同盟の産業を破壊して継戦能力を奪うことも」
「そして我々は戦争に勝ち」
「戦争は終わります」
つまりもう犠牲が出ることはなくなったというのだ。
「このことは喜ぶべきでしょう」
「市民に多くの犠牲者が出てもだな」
「そうなります」
側近はリンカーンに話した、そしてリンカーンも納得するしかなかった。彼はこの時は鏡に映る自分の顔色が何故悪い理由をこのことに求めた。
そのうえでだ、こう言ったのだった。
「市民に多くの犠牲を出させた作戦を命じた」
「そのことで、ですか」
「プレジデントのお顔は、なのですね」
「どうしても優れない」
「そうだというのですね」
「鏡に映る顔はな」
こう言い思った、これで納得しかけた。
しかしある朝だ、彼は今度は妻であるメアリーにこんなことを言ったのだった。
「嫌な夢を見た」
「鏡だけでなくだ」
「そうだ、とてもな」
「どういった夢ですか?」
メアリーは眉を曇らせて大統領である夫に問うた。
「その夢は」
「私が死ぬ夢だ」
「死ぬ・・・・・・」
「ホワイトハウスで泣いている声がしたのでそこに行くとだ」
「あなたが、ですか」
「死んでいた、そして皆が泣いていたのだ」
そうした夢だったというのだ。
「私の亡骸を囲んでな」
「恐ろしい夢ですね」
「全くだ、鏡のことはわかったが」
「それは戦争のことで」
「そう思っていたが」
しかしというのだ。
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