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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十三話 権謀の人
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んな事をした、俺が何時そんな事を頼んだ、答えろ! オーベルシュタイン!」
「閣下にこの帝国を治めてもらうには他に手段がありませんでした」

「俺があの男に、ヴァレンシュタインに勝てないと言うのか!」
「……」
「答えろ! オーベルシュタイン! ……貴様」
ローエングラム伯が激昂する。オーベルシュタインは無表情なままだ。伯が苛立ち言い募ろうとした時、司令長官の声が流れた。

『オーベルシュタイン准将、この薬ですがグリューネワルト伯爵夫人にも渡しましたか』
「……渡しました」
「貴様、姉上を巻き込んだのか!」

激昂し飛び掛ろうとしたローエングラム伯をシュタインメッツとジンツァーが押さえた。身を捩って暴れるローエングラム伯を必死に取り押さえている。

グリューネワルト伯爵夫人に薬を渡した。やはり陛下を暗殺するつもりだったか……。
「全て閣下のためです。閣下に残された時間は短い。急ぐ必要がありました」
「短い?」

「有能で従順な司令長官がいるのです。自由惑星同盟が弱体化した今、帝国に叛意を持つ副司令長官など不要、帝国の上層部はそう考えるでしょう、そうでは有りませんか、司令長官」
『……、そうですね。いずれは排除されたでしょう』
「!」

「閣下はお分かりではないようですが、極めて危険な立場に有ったのです。閣下が生き残るには、今回の内乱を利用して覇権を握る、それ以外にはありませんでした。そのためなら小官はどのような事でもします」
「……」

「オーベルシュタイン准将、卿は何故そこまでローエングラム伯に賭けるのだ?」
不思議だった。何故ローエングラム伯のためにそこまでする。分の悪い賭けだ。失敗する確率が高い事が分からなかったとは思えない。

オーベルシュタインが手を右目にやった。そして手を前に突き出す。手のひらの上には小さな丸い球体があった。そして右目には奇妙な空洞が生じている……。

「この通り小官の両眼は義眼です。ルドルフ大帝の時代であれば劣悪遺伝子排除法によって赤ん坊の頃に抹殺されていました。小官は憎んでいるのです。ルドルフ大帝と彼の子孫と彼の生み出した全てのものを……ゴールデンバウム朝銀河帝国そのものを」
「……」
大胆な発言に皆息を呑んだ。これだけでもオーベルシュタインの死罪は間違いない。

「ゴールデンバウム王朝は滅びるべきです。可能であれば小官自身が滅ぼしてやりたい。ですが小官にはその力が有りません。だからローエングラム伯に協力しました。ゴールデンバウム王朝を滅ぼしたいと考えているローエングラム伯に」
「……」

話し終えるとオーベルシュタインは右目を元に戻した。奇妙な空洞が消える。興奮も激昂も無かった、淡々と話すオーベルシュタインの姿に奇妙なまでの圧迫感を感じたのは俺だけだろう
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