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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十三話 権謀の人
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アイスの敵ではない、おそらくリューネブルク中将あたりがキルヒアイスを取り押さえたのだろう……。

彼らは司令長官の恐ろしさを悪辣さを知らない。普段の穏やかさに騙されがちだが、その気になればどんな悪党でも裸足で逃げ出すほどの悪辣さを鼻歌交じりで発揮する人だ。

俺はあの第一巡察部隊で嫌と言うほど味わった。味方の俺が震え上がったのだ。キルヒアイスを嵌めて陥れることなど赤子の手を捻るより容易かっただろう。

ラインハルト・フォン・ローエングラム、エーリッヒ・ヴァレンシュタイン。佐官時代の両者に仕えたのは宇宙艦隊の司令官達の中では俺だけだ。全く違う二人だった。

天性の軍人、軍人以外の何物でもないローエングラム伯に対し、何かの間違いで軍人になったのではないか、そう思わせるほど軍人らしくない司令長官。似ているところが有るとすれば事に及んでの果断さと敵に対する容赦の無さか……。

権謀の人……。今回のリヒテンラーデ侯と司令長官の会話から思ったのはそのことだった。臨機応変に謀をめぐらし敵を打ち倒す人。リヒテンラーデ侯と共にオーベルシュタイン達の策謀を読み解き、対処策を考えていく姿はまさに権謀の人だった。

艦橋に着くとそこには既にシュタインメッツ参謀長、ジンツァー准将、フロイライン・マリーンドルフ、リュッケ中尉がいた。敬礼してくる彼らに答礼を返す。皆緊張した顔をしている。無理も無い、彼らもこれから何が起きるのかを知っている。

「準備は?」
「既に分艦隊司令官達はブリュンヒルトに向かっております。後五分もすれば艦橋に着くでしょう。ローエングラム伯、オーベルシュタイン准将にはこれから連絡を入れます」
俺の問いにシュタインメッツ参謀長が答えた。

「では五分後には皆此処に揃うわけか」
「はい、それからレンテンベルク要塞との間には回線が繋いであります。司令長官はいつでも出られるそうです」
「分かった」
連れてきた三十名を艦橋の入り口に配備する。いざと言うときには彼らの力が頼りだが、出来れば混乱させずに抑えたいものだ。

司令長官からローエングラム伯達の拘束を命じられた後、最初にやった事は、ジンツァー准将に連絡を取る事だった。ジンツァー准将からフロイライン・マリーンドルフ、シュタインメッツ、リュッケに連絡を取り一人ずつ事情を話した。

反対されればその場でジンツァー准将が拘束するはずだった。だが全員賛成してくれた。フロイライン・マリーンドルフはともかく、シュタインメッツ、リュッケが賛成してくれたのは助かった。

どうやら二人ともローエングラム伯の行動に、そしてオーベルシュタインの動きに不安を感じていたらしい。気がつけば自分が反乱に加担している事になるのではないか? とんでもない事になるのではないか? そう思っていたようだ。そし
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