Side Story
少女怪盗と仮面の神父 33
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かす為、私が手札を失くさない為に、王子と伯爵の権限を利用してお前を確保した。……ああ、街に居た「伯爵」は私の前任者で、元・私の執務代理人だぞ。ハウィスへの領地継承直後に貴族籍を剥奪してやったら、一家揃って何処かへ移住したけどな」
「!!?」
予想もしてなかった言葉に耳を撃たれ、全身が凍り付く。
物のついでに付け足された情報なんかどうでもいい。
元領主? 一家も、他に比べれば多少大人しいだけで、結局良い噂を聞かない強欲な貴族だった。彼らがどうなったかに興味は無い。
それより
「ハウィスが死にかけてた……? それ、どういう意味!?」
浜辺で出逢った時、瞳に深い悲しみを宿していた彼女には確かに覇気が無かった。
でも、穏やかに温かく包んでくれて。
死を連想させる様子なんか少しも……
「十一年前。街で金を散蒔いてる最中のハウィスに石を投げ、大衆の面前で首切り自殺した売春婦がいたのさ」
「……ッ!?」
「ブルーローズの目的はお前と同じ、南方領の経済安定だった。とは言っても、当時は王都にさえ戦争被害が色濃く残ってたし、現代とは比べものにならない切実さがあったんだけどな。ま、それはともかく。自分達の活動が一般民の助けになると心の底から信じてたこいつらは、売春婦の自殺を目の当たりにして以降、精神的に追い込まれて鳴りを潜めた。特にハウィスの落ち込み方は酷かったらしいぞ。毎日毎日、寝ても覚めても狂ったように泣きながらひたすら謝り続け、赤い物を視界に入れれば声が掠れるまで絶叫した挙げ句気絶したそうだ。私が拾った後も本格的な治療はなかなか受け付けず、辛うじて呼吸はするが……それだけ。売春婦の自殺騒動から約三ヶ月後、ネアウィック村へ移り住んだ頃には、食べない飲まない聴かない喋らない寝返りすら打たない、ベッドの上の骨人形と化していた」
そろりと首を動かして肩越しにハウィスを覗く。
彼女は治療中のマーシャルに顔を向けつつ男性の話も聴いているのか、唇を噛み締め、肩を震わせている。
「……どうして? ブルーローズは実際に南方領民を助けてたんでしょう? その売春婦はどうして自殺したの?」
しかも、後に英雄とまで称されるブルーローズの……ハウィスの目の前で。
売春婦の行動が、解らない。
「それだ」
「え?」
なに? と見上げ直すと、男性が溜め息混じりで右手を自らの腰、左手を額に当てた。
「お前達義賊は、南方領民を職人層や一般民だけだと思ってるだろ? だから売春婦は行き場を失い、若くして死に追い詰められたんだ」
「……?」
アルスエルナの場合、法律で禁止される以前に体を売っていた女性は元娼婦、以後の女性は売春婦と呼ばれ蔑まれている。
現代社会では罪人扱いされる彼女達も、シャムロックから見れば「一般民」だ。
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