第1話 努力-諦めろと俺の心が囁く-
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あの新兵達が俺の必死に訓練している姿を見る表情は「どうして、そこまで、頑張るんだ?」と言いたげだ。
弱いからだよ、心も体も弱いからだよ……どれだけ訓練しても一生追いつけないと感じさせる人間が俺の周りにはゴロゴロいるんだ。ただでさえ、“凡人”の俺が人一倍努力しなければ俺の描く“夢”は、一瞬の内に泡と消えて無くなるんだ。
「おぉおおおぉぉぉっ! 二百八十八…………二百八十九…………二百九十!」
――もう腕が引き千切れそうなくらい熱くて痛い……もう、諦めろよ! お前が少し頑張った所で何も変わらない。ただ、お前は努力の加減も知らない馬鹿だと罵られるだけだ。
「二百九十一………………二百九十二!」
そんな事は十分に分かっている。今、諦めてしまえば何もかも楽になる……でも、それでも俺は……この程度で“限界”なんて感じたくない。俺はもっと高みを目指すんだ。
「二百九十三………………二百九十四!」
――幾らお前が努力しようと“越えられない壁”は現実に存在するだぜ?
「二百九十五………………二百九十六!」
一々、五月蠅いんだよ。お前はあの頃の近所の小父さんと同じか……お前の言う“現実”ってなんだよ。諦める事か、俺は馬鹿なんだ……そんな難しい事は聞いてくれるな。
「二百九十七………………二百九十八!」
――人一倍努力して、その努力が報われなかったらどうするつもりなんだ?
「二百九十九……くっ!」
――お前如きの一人の努力で、この世の“未来”が、誰かの“運命”が少しでも良い方向に変わると思っているのか? この自意識過剰野郎! お前みたいな無責任に頑張る人間が社会を腐らせるんだ! 大人しく、己を殺し、社会の一部として楽に生きる道を選べ!
そうか知れない……だけど、俺はっ!
「おぉおおおぉぉぉっ! あがれぇぇぇっ!」
「後一回だ、気合入れろぉっ!」
「お前なら出来るぞ、お前は俺達が認める“孫呉一の努力家”だ!」
「儂の為にも頑張ってくれっ、老いぼれの儂に“努力”が何たるかを教えてくれたのはお主じゃ! 頼む、頑張ってくれ!」
何だよ……皆……自分の訓練はどうしたんだよ…………新兵達が何事かと驚いているじゃないか。
「そんな無茶な事をして腕を真っ赤にしやがって、まだ、諦めんじゃないぞ! おい、誰か、何か、冷たい物を持って来い!」
「調練場の最寄りの水汲み場まで、それなりの距離があるぞ。絶対に間に合わねぇぞ……そうだ、あの木の木陰に置いてある盾のひんやりとした鉄の部分を腕に当てるなんてどうだ!」
「おぉ、それは名案だ! 直ぐに持って来い!」
“名案”なのか、“迷案”ではなくて……なんにしても腕が冷えるのはありがたい……。
「よしよし、行くぞっ…
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