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遊戯王GX〜鉄砲水の四方山話〜
ターン59 蹂躙王と暴食の憑依
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 一体、どれほどの時間を走っただろう。常に暗く葉が生い茂り、上からの光を遮るこの森の中では、時間感覚などあってないようなものだ。もう疲れた……ような気もする。眠りたい……ような気もする。辺境の大賢者の館を抜け出してからというもの、ずっとこんな調子だ。まるで夢の中で動いているかのように、何もかもが他人事に感じられる。
 ただ、これが現実な証拠もある。僕が何かの理由で足を止めたりスピードを緩めたりするたびに、後ろから悪魔の笑い声が聞こえてくるのだ。そもそも、いくらダークシグナーの僕でも本物の悪魔が本気で捕まえに来たら逃げ切れるわけがない。なのに僕がまだ生きているのは、ひとえにあの悪魔が僕をギリギリまでいたぶって追い詰めるつもりだからだろう。今はまだ体も動く……だけど、それすらも限界に達してピクリとも動けなくなるその時をあの悪魔は待っている。
 逆に言えば、こうして走っている限り身の安全は保障されるということだ。何とも皮肉な話ではあるけれど、この森に潜む疫病狼の群れも自分たちより格上の悪魔が狙っている獲物の僕に手を出そうとはしてこない。今もまたちょっとした群れのすぐ近くを通り抜けたが、どいつもこいつも耳を伏せて尾を垂らし我関せずを貫いているため唸り声一つ出すこともしない。
 そうして走り続けてから、結局どれほど経ったのだろうか。その時は、本当に突然訪れた。無限に続くかに見えた暗い森の前方から突然光が射し、ふらふらと誘われるようにそのまま行くと突然森が終わっていたのだ。
 夕日が、今にも地平線と触れ合いそうな様子が見える。あと数十分もしないうちに、電気なんて気の利いたものがないこのあたりも真っ暗になるだろう。

「ぬ、抜けた……!」
「なんだ、もう終わりか?ならばこれ以上追い回す意味もないな」

 喜びもつかの間、手を後ろに伸ばせば届くほどの距離でゾッとするほど冷たい声がする。後ろを振り返ると、そこにはまるで疲れた様子で立つ悪魔の姿があった。頭には紫色の、巨大なカールした角が一対生え、背中からは蝙蝠のそれを思わせる形の翼がやや控えめなサイズではあるが付いている。全身は鎧を着ているかのように硬質化し無数の棘が生えていて、なおさらその猟奇的なシルエットを目立たせている……が、僕が見ていたのはそんなところじゃない。その悪魔が身にまとっていた緑色のローブには、見覚えがある。森の中を走り抜けてきた割には汚れが少ない上質そうなそれは、間違いなく辺境の大賢者が着ていたものだ。
 そんなことじゃないかとは思っていたが、それでもどこかで信じたくなかった……そんな希望も、もはや完全に打ち砕かれた。最後に聞いた老人のあの不穏な台詞、入れ違いに僕を追いかけてきた目の前の悪魔。やはり大賢者は、この悪魔に体を乗っ取られたのだろう。言葉を失う僕を見て、悪魔がふと意表を突かれた
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