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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十二話 罪の深い女
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です。これなら誰も逆らえません」
リヒテンラーデ侯は考え込んでいる。司令長官も何も言わない。二人の沈黙に艦橋は痛いほどに緊張している。息をするのさえはばかられるようだ。
『卿の言い分は分かる。しかしグリューネワルト伯爵夫人がそのようなことをするかの。これまで何の動きも見せなかったのじゃぞ』
「だからこそ好都合でしょう、誰も伯爵夫人を疑わない。陛下とローエングラム伯、どちらを選ぶと言われたら伯爵夫人はどうすると思います?」
『……自信が有るのじゃな』
「そうでもありません。半々だと思います」
司令長官の言葉にリヒテンラーデ侯は大きく溜息を吐いた。
『半々か……、陛下の御命には代えられぬ。伯爵夫人を調べさせよう』
アンネローゼが調べられる。何故そんな事に……、そう思う私の気持ちを他所に手筈が着々と決められていく。憲兵隊が宮中に踏み込むのは一時間半後、それに合わせて別働隊もラインハルトの拘束に動く。
別々に行動した場合、お互いに連絡を取り合う可能性がある。最悪の場合伯爵夫人が自殺、或いは陛下を弑逆しかねない、そういうことだった。
本当にアンネローゼが薬を持っているのだろうか。いや、それよりも司令長官とリヒテンラーデ侯の会話。ほんの僅かな手がかりからあそこまで思いつくものなのか……。
政治の世界の厳しさ、そこに生きる男達の苛烈さ、獰猛さ、酷烈さ。ほんの僅かな過ちが命取りになる世界……。その中で生き残ると言う事がどれ程至難な事か。司令長官が何度も私に発した警告、その意味がようやく分かった。
あれはこれ以上立ち入るなと言う警告だった、私は愚かにもそれを軽視した。一つ間違えば私はオーベルシュタインに利用されるか、或いは司令長官に利用されて滅茶苦茶にされていただろう。今此処にいるのは僥倖に過ぎない。
打ち合わせはいつの間にか終わっていた。司令長官は指揮官席で穏やかな表情を浮かべている。周囲にはフィッツシモンズ中佐がいるだけだ。
「閣下」
私の躊躇いがちな呼びかけに司令長官は訝しげな表情をした。フィッツシモンズ中佐が油断無く身構えている。
「申し訳ありませんでした。何も知らずに、私が愚かでした」
司令長官は私の言葉に微かに苦笑すると頷いた。
帝国暦 488年 1月 2日 帝国軍総旗艦ロキ エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
銀河英雄伝説の原作を読むとラインハルト・フォン・ローエングラムはつくづく強運だと思う。こう言うと多くの人間がバーミリオン会戦を頭に浮かべるだろう。だが、俺はアムリッツア会戦後に皇帝フリードリヒ四世が死んだ事こそ強運以外の何物でも無いと思う。
フリードリヒ四世の死についてラインハルトは後五年、いや二年生きていれば犯した罪悪に相応しい死に様をさせてやったと心の
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