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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十二話 罪の深い女
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が強い視線で私を見ている。そして顔を寄せると小さな声で“騒ぐな、次は首を絞める”と囁いた。私は痛みを堪えながら首を縦に振った。中将は軽く頷くともう一度強く肩をつかんでから放した。
『卿、本気か?』
「本気ですし、正気です。キルヒアイス准将は十月の末にこの薬を手に入れています。同じ時期に伯爵夫人も手に入れたでしょう」
『うーむ』
リヒテンラーデ侯が厳しい眼で薬を睨んでいる。
そんな薬がアンネローゼのところに有るはずが無い。彼女は陛下を愛しているのだから。リヒテンラーデ侯も半信半疑な表情をしている。司令長官の邪推だ。
「バラ園の事を思い出してください。あの時の標的は私と侯だった。ノイケルン宮内尚書が宮中の実権を握り、ローエングラム伯を呼び戻して協力して帝国を牛耳ろうとした」
『オーディンに戻ったローエングラム伯は、宮中でクーデターを起し、私と卿を暗殺したノイケルンを捕らえクーデターを鎮圧する事で実権を握ろうとした』
まさか、そんな事が、慌てて周囲を見た。誰も驚いたような表情をしていない。何人かは頷いている。誘拐事件のときラインハルトが疑われたのは知っている。この事件でも周囲は関与していると考えていた?
誰も私にそんな事は言わなかった。周囲が私に隠したとは思えない、私が甘かったのか? 何処かでラインハルト達を信じる心が有った? その事が事実から眼を逸らさせた?
人間は見たいと思う真実だけを見る、見たくない真実からは眼をそむけてしまう……。私は何処かで真実から眼を背けていたのか……。だから私だけがキルヒアイスの捕縛に納得できず、司令長官に食い下がった……。
「此処でおかしな事があります。ローエングラム伯が軍の実権を握るためには宇宙艦隊司令長官の職を必要とするはずです」
『うむ』
「陛下がローエングラム伯にそれを許すでしょうか?」
『いや、それは無い。次の司令長官はメルカッツに決まっておった。なるほど確かに妙じゃの』
リヒテンラーデ侯が司令長官の言葉に相槌を打った。司令長官は一つ頷くと口を開いた。
「オーベルシュタインはその事を知らなかったはずですが、陛下が簡単に伯を宇宙艦隊司令長官にすると考えたとも思えません。いやそれ以上に、お前達が私や侯を殺したと陛下に非難された場合、伯はどうすると思いますか? 伯が陰謀の件を知らなかったとしたら?」
『なるほど、オーベルシュタインにとって陛下は邪魔か。そう言いたいのじゃな』
「ええ、罪はノイケルンに被せます。ノイケルン宮内尚書は我々を暗殺し実権を握ろうとしたが、陛下の信頼を得る事が出来ず、逆上して陛下を弑逆……」
『後を継ぐのはエルウィン・ヨーゼフ殿下か。なるほど操るのは難しくないの』
「ローエングラム伯は反乱を鎮圧し、大逆人を誅した英雄
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