或る短かな後日談
一 情動
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掴み合った鉤爪と、鉄の拳が震える度に、無機質同士がぶつかり、鳴る。甲高く小刻みなその音が、通路に響いて反響する。
「悠長な……ッ」
「戦う意味も、話す意味も……私たちにはもう、同じだから。ねえ、キメラ」
「煩い、煩い、壊しにこい、壊してやるから……」
私ね。マトが好きなの。
「あ……?」
音が、静まる。見開かれた片目、小さく空いた口。そんな所まで、彼女、マトにそっくりで。
「あはは、あは、何、こんな時に! 殺しあってる時に! 女同士で恋人ごっこかよ!」
「そうね。私は……愛してる。マトのことを。誰よりも」
「っ」
まだ。まだ間に合う筈なのだと。キメラと言うこの少女は、クイーンが抱いた此処への未練。クイーンの心は、キメラから離れてなどいない。だから。
「初めは、怖かった。銃さえ向けてしまった……けど、それでも。今はこうして、二人で居る。もう、離れることなんて無い」
私たちがそうであるように。彼女たちもまた、一緒に生きることが出来る。キメラがクイーンを求める限り――再び手を取り、一緒に生きる未来がある。あるのだと。そう、自分に言い聞かせながら、一歩踏み出す。踏み出せば、彼女の顔が歪み。粘菌に塗れ、白を覗かせ。僅かに剥いた歯を軋らせながら、唸るように言葉を紡ぐ。
「クソ……っ、何のつもりだよ、何なんだよ、お前、お前は……」
「キメラ。私たちは、貴女とだって手を取り合える……クイーンだって、変わらない。彼女はまだ、貴女のことを、」
愛している、と。
手を伸ばし、紡ごうとした言葉は。伝えようとした言葉は。
一発の、銃声。背後から抜けて、私の体。この身を散らした、轟音に消えた。
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