暁 〜小説投稿サイト〜
或る短かな後日談
或る短かな後日談
一 情動
[9/9]

[8]前話 [9] 最初

 掴み合った鉤爪と、鉄の拳が震える度に、無機質同士がぶつかり、鳴る。甲高く小刻みなその音が、通路に響いて反響する。

「悠長な……ッ」
「戦う意味も、話す意味も……私たちにはもう、同じだから。ねえ、キメラ」
「煩い、煩い、壊しにこい、壊してやるから……」

 私ね。マトが好きなの。

「あ……?」

 音が、静まる。見開かれた片目、小さく空いた口。そんな所まで、彼女、マトにそっくりで。

「あはは、あは、何、こんな時に! 殺しあってる時に! 女同士で恋人ごっこかよ!」
「そうね。私は……愛してる。マトのことを。誰よりも」
「っ」

 まだ。まだ間に合う筈なのだと。キメラと言うこの少女は、クイーンが抱いた此処への未練。クイーンの心は、キメラから離れてなどいない。だから。

「初めは、怖かった。銃さえ向けてしまった……けど、それでも。今はこうして、二人で居る。もう、離れることなんて無い」

 私たちがそうであるように。彼女たちもまた、一緒に生きることが出来る。キメラがクイーンを求める限り――再び手を取り、一緒に生きる未来がある。あるのだと。そう、自分に言い聞かせながら、一歩踏み出す。踏み出せば、彼女の顔が歪み。粘菌に塗れ、白を覗かせ。僅かに剥いた歯を軋らせながら、唸るように言葉を紡ぐ。

「クソ……っ、何のつもりだよ、何なんだよ、お前、お前は……」
「キメラ。私たちは、貴女とだって手を取り合える……クイーンだって、変わらない。彼女はまだ、貴女のことを、」

 愛している、と。

 手を伸ばし、紡ごうとした言葉は。伝えようとした言葉は。
 一発の、銃声。背後から抜けて、私の体。この身を散らした、轟音に消えた。




[8]前話 [9] 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ