或る短かな後日談
一 情動
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色をしたそれが。
腹部を穿つ。骨が砕ける音がする。綿が千切れる音と、次いで。くすんだ様な銀色に、赤。堪える間も無く吐き散らかした、無臭の赤。
意識が飛ばないのが、唯一の救いで、そして、悪意だった。その悪意が在ったが為に。
続く、指。先の尖った、錐にも似たそれが、吹き飛ぶ私に追い縋り、この目を貫く、その前に。
マトの刃が彼女の腋腹へと突き立てられる。ほぼ、同時に。私の銃弾、二丁の拳銃が、彼女の顔、片目を穿つ。
「ぁ、く……」
ごめんと呟く。一発は外れ、髪を浚った。数本の黒糸が宙を舞い、彼女が仰け反るその一瞬に、体勢を――
思わず小さく漏らした悲鳴、バランスが崩れる。背骨が砕けている。アンデッドとして与えられた肉、粘菌。力を込めたそれを以って、無理矢理に立つも、揺れ。揺れた体を。
「リティ」
抱かれる。抱かれるままに、キメラから離れ。腕の中で、ライフルに弾を装填して。
「あは……は、は……殺すの、上手くなったじゃん?」
「……もう、やめよう。キメラ……もう……あなたと戦いたくなんてない」
「黙れよ、黙れ……全部打ち壊して、壊した挙句、身勝手に……」
マトの腕の中から、身を降ろし。対峙した彼女は、片目を抑えたまま、言う。零れた液体、透明な液体。硝子球のような何か。
「畜生が……折角、クイーンが治してくれたのに……クソ……」
離れた手。流れる赤、空洞。骨の白と、やっぱり、赤。
「救うんだろ……なら、救って見せてよ……この私をさぁ……ねぇ……」
ふらつく体。苦しんでいる、心が震えている。なら。
「このままじゃ……あなたは、壊れてしまう。お願いだから……この手を取って。全部……全部、終わらせるから」
口元まで垂れた粘菌、薄く開かれた唇と、覗く舌。それは、口元まで這ったその赤色を拭い取り。
唾液と共に、吐き捨てて。
「空いたその手で打っ壊すんだろ。私も……お母様もさぁ!」
そして、仕掛ける。腕、腕、腕、開かれたそれは、私達を掴み、抉り、引き千切らんと。
ライフルを構える。彼女の腹を……否。腹じゃ、止まらない。けれど。銃口は、上。腹の上、胴の上、腕の上……頭に。
「っ」
躊躇い。其処にあるのは、紛れもない。既に傷つけてしまったとは言え。
彼女の顔だ。
「リティ、ありがと」
マトが言う。刹那。腕と腕、掌と掌。三つ、三つ、合わせて六つ、繋がり。
金属同士がぶつかる音。少女同士の腕が合わさり、鳴る音では無い。そんな音を響かせて、彼女達は互い、止まって。
「……躊躇して、くれたんだね。……ありがとう」
「……褒められるような、ことじゃないわよ」
「そうだね。でも、その分嬉しいかも」
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