或る短かな後日談
一 情動
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アリスに壊されて、そして、クイーンやバルキリーが今度は、歪んだ終わり方をしてしまうんじゃないかって。でも」
でも。けれど。今のマトを、彼女を見ていると。
「今なら、信じられる。私は……マト、あなたが居れば。あなたさえ居れば。きっと、過つことなんてない。だから、ね」
彼女の両手を、手のひらで包む。
闇に、視線を向ける。影から這い出すその影に。爛々と輝くその瞳に。
「……聞いていたなら、信じて欲しい。私達は、アリスを救う。クイーンを救う。救ってみせる……私達自身も、含めて」
キメラ、と。闇へと向かって声を投げる。近付く足音、それは、人間のそれではない。彼女の持つ足、硬質の多脚。歪められた姿は、余りに痛々しい姿は。
マトと同じ、顔で嗤う。
「ア、ハ、アハハハ、ハァ……今度は、クイーンを奪うつもり……?」
マトの顔が、一瞬。訝しげに引きつる。言葉の意味が理解できない。
「奪う……? 一体、何を……」
「私、は……ネクロマンサー……お母様の……ああ……」
彼女の腕。マトが切り落とした、三本の腕……それは、今。機械の腕……彼女の体、少女としての細い胴、肋骨、顔。歪められる前の体、マトと同じ体には、不釣合いなほどに巨大な腕。軋むような、泣くような。耳障りな機械音、駆動音……それと、共に。
「私達はッ! お母様の為に生まれたッ! なのに、全部、全部奪いやがってッ!」
吼える。叫び声は、通路、満たす空気を震わせて。
マトに、目配せする。今、言葉を交わすことは出来ない。まずは。
地を蹴る。一歩、引く。金属質の床を叩き、音、響くと同時にその音は、鋼の拳に砕かれて。飛んだ破片が散り、降り。いつかに聴いた雨のように、連鎖して鳴る瓦礫の波紋。その音に紛れ、時に、合い。踏んだ床、ステップと。
右から左。横薙ぎに光る爪と、影。黒い尾。彼女の指が爪に置き換えられたように、鏡合わせの彼女の指もまた、鋼。擦るように、流した一閃は、甲高い金属音と共に過ぎ去り。マトの姿、視界の端へと外れるが早いか、銃弾を二発、キメラへと放つ。
弾丸が身に埋まる。埋まる程度では彼女は止まらない。死体の体に、痛みは無い。心もまた、壊れてしまえば痛みなど無い。だから。
まだ。壊れていないことを祈る。祈りながらも、銃弾を放つ。放つ。
「あ、ハァ……今度こそ、今度こそ……今度こそ、殺す、殺す……そして」
何もかもが、元通り。と。
「何が……戻ると言うの」
「戻る、戻るんだよ……ッ! お母様も、クイーンも……私をまた……ッ」
愛してくれる。
言葉に、不意を突かれる。隙が生まれる。下がった一歩、半歩の間に、踏み込み。彼女の拳、第三の腕……薄暗い電灯に照らされた、鈍い鈍い
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