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或る短かな後日談
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一 情動
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れは。彼女の紡ぐ言葉は。拒絶の――

「しかし」

 一度離した体が近付く。白い肌が、また。私と重なり、その、重み。額を通じて預けられた、彼女の重みを、胸に感じる。

「……しか、し……」

 私の腕の中、胸に抱かれた彼女が、迷うようにそう、小さく呟く。私は、そんな、彼女の背を。
 
 私は只、力無く。撫ぜる事しか、出来なかった。




◇◇◇◇◇◇




 二人から離れ、部屋の外。アンデッドの聴覚であっても話し声の届かない程、十分に離れた通路に立って。マトと二人で、灰色の床、鉄柱。遠く高い天井は闇に呑まれて見通せず、突き出した鉄骨が視線を遮る……冷たい空気と、積もった埃……虫の羽音も、足音もない。只々静かなその場所で――ひとつ、近付く影はあれども――彼女に言葉を投げ掛ける。

「……マト、どうするつもり?」

 思い描くのは、無機質の体。白い体、細い体……感情を押し隠した、否、知らないと言った方が正しいのかもしれない。もしかすると、彼女もマトのように。誰かによって作られた、そんな存在なのかもしれない……そう思う程に、不器用で、そして、無垢で。
 姿形は似ていないけれど、傍に立つマトと重なる。そんな、少女。

「……バルキリーは……多分、クイーンと一緒に居ないといけない。……離れちゃ、いけない気がする」
「そうね。私も、そう思う。けれど……」
「……バルキリーが望んでるのは、アリスをクイーンから遠ざけること……だから」

 暗がり、影の先。遠く近付く歪な足音。その音だけが微かに響くこの空間で、彼女の爪が、僅かな明かりを受けて輝く。鉄骨に巻き付いたコード、その先に咲いた電灯。彼女の髪、体、這い出した影が……まるで、蛇か、蟲のように地を這う影が、やけに暗い。

「……知るのって、つらいのね。何も知らないままだったら、私達は……バルキリーの望みに、応えたかも知れない」
「けど……思い出すことが出来たから、私達は……」
「そう。だから、後悔はしてないわ。寧ろ」

 寧ろ。私は、思い出せたことを感謝してる。今度こそ……正しい結末へと向かうことが出来ることを。閉じた物語を今一度、やり直す事が出来たことを。

「……そう。だからこそ、ね。後悔するようなことは――」
「しない。させない。……何が何でも、アリスを倒す……迎えに行く。そして、クイーンを解放する……私達が残していったアリスの……悪意から。そして」

 彼女は。強く、言葉を紡ぐ。その目は、落とされた影。暗い暗い陰影。その中でも、尚、明るく。眩しく。まるで、そう、例えるならば。

「……眩しいわ」
「え……?」

 まるで、未来のそれのように。

「……怖かったの。今度も、また。間違えてしまうんじゃないかって。私達は
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