或る短かな後日談
一 情動
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逃れて欲しい。出来得る限りの準備はしてある」
「バルキリーさんっ!?」
クイーンの驚愕に動じはせず。彼女は、真っ直ぐに私達を、身動ぎ一つせずに見て。
「そんなこと、出来る筈が……此処にはキメラさんだって、ネメシスさんだって……」
「……彼女たちは、ネクロマンサーの側として戦闘を継続することを受容した。ネクロマンサーに抗う意思は無い」
「それでも……っ!」
白く脱色した髪の下、彼女は一度、瞼を閉じて。本の、少し。少しの間、沈黙する。そうして。
「脱出経路は確保してある。知性を持たないアンデッドでは侵入は不可能。昆虫兵器の侵入も見られない。その経路を使って、クイーンと共に、逃げて欲しい」
再び目を開け、紡いだ言葉は、相変わらず静かで。しかし、段々と……僅かに、早く。そして、瞳は。その瞳は。
微かに。けれど、確かに揺れていて。
「頼む。私はアリスによって作られたアンデッドではない。この計画にアリスの悪意は関与していない。クイーンがネクロマンサーの手駒として動くことも無い。彼女の意思決定は全て彼女に委ねられている。心を持っている。庇護に値する。懇願する。クイーンを、彼女を連れて。この地からの脱出を求める。懇願する……」
言葉が紡がれる。言葉と共に、瞳が揺れる。用いられる言葉は、矢張り、事務的な。そういう言葉しか知らないままに過ごして来たのだろう。そういう言葉しか使えないように、作られ、生きてきたのだろう。それでも……
「……ずっと、私たちを誘導してきたのは、この為?」
「そうだ。ネクロマンサーからクイーンを引き離す……それだけが、私の目的。それだけが」
私の、願い。
彼女の言葉は。彼女の目的は……その願いは。他の何かによってではない。誰かによって植え付けられたそれではない。唯一の、無二の。彼女自身の、その、心が齎した――
「――」
思わず。手を、伸ばそうとする。彼女の肩に触れようとして、其処で漸く、自身の爪に気が付き。手のひらを返し、手の甲を。彼女の肩に。そして。背に。
「……オート、マトン……?」
理解する。彼女もまた、心を持っているのだと。只、無感情に、機械的に見えたとしても……私達と同じなのだと。私がリティを想うように。リティが私を、思ってくれるように……同じ心を持っているのだと。全部、全部、理解して。
「……ごめん。ずっと、疑ってた。あなたも、他のアンデッドと同じなんじゃないかって。ごめん。ごめんなさい……」
「……私に対する謝罪は、不要――」
「する。……させて、欲しい。あなたの、彼女を守りたい気持ちを……信じられなかったことを。あなたを信じられなかったことを。せめて、後悔させて欲しい」
回した腕に、力を込める。傷つけないよう
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