或る短かな後日談
一 情動
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バルキリーさん」
「クイーン。ネクロマンサーの元へ向かうと、そう言ったのか」
浮遊する身体。機械の下半身。改造に改造を重ねた、一体のサヴァント……街で私達と交戦した、バルキリーの姿があって。
「……また、戦うつもり?」
問いを投げる。言葉は、振られた頭に躱される。
「私は今、クイーンに問うている。クイーンの意思を知りたい」
「……私は、彼女達と共に行きます。……母様と、戦います」
「賛成しかねる。クイーン、貴女では、ネクロマンサーには敵わない。無論、お前達もまた」
向けられる視線。それは、感情の起伏が読み取れない……レンズのような、冷たい視線で。
「……あなたはあの時、ネクロマンサーの元へと辿り着けと言った筈よ。それに、私達は、二人で此処まで来た。沢山のアンデッドを倒してきた。それでも」
「不足。ネクロマンサーは元より、自身が対処しきれないアンデッドは製作しない。確かに私はネクロマンサーの元へと誘導してきた、しかし、それはネクロマンサーを討つ為ではない。不完全とは言え、アリスが死体操作術を行使する以上、交戦は無――」
「それでもっ!」
クイーンの声が、バルキリーの声を掻き消す。感情的な声は、無機質な声は。互いに、一度。一度、止まって。
「……それでも。私は、母様を止めたいんです。このままだと母様は……ずっと、ずっと苦しみ続けることになるんです」
「苦しみなんて無い。彼女の精神は歪み切った。私達への行いに付随するのは悦楽しかない」
「違う、今はそうであったとしてもッ! 本当の、本当の母様は……!」
母様は、と。
昂ぶった感情が、冷めていくように。進んでいく道の、標を見失ったように。クイーンの言葉が、消え入る。
「……違うんです。本当の母様は、優しい……優しい、人、なんです」
「理解している。本来のアリスは……彼女らと行動を共にした個体と行動原理を同一とする。しかし、今は異なる」
項垂れるクイーンを、抱くように。腕を回し、髪を撫ぜ。変わらず、抑揚の無い声ではあるものの。その動作が表すのは、同情、慰めのそれ。睫を伏せて、そう、言い聞かせるそれが、彼女を宥めるための動作なのか。口調、振る舞いからは読み取れず。
「……ソロリティ、オートマトン……いや、リティ、マト。お前達がアリスを連れて旅立つことが出来たのであれば、それが最善だった。しかし、アリスが此処に戻った以上……このエリアに平穏は無い」
彼女の白く、細い。死体のような、死体らしい、そんな指が、黒髪を攫い――名残を惜しむように、本の少し伸びた後に――彼女から離れ、私達へと向き直る。
「クイーンを連れてこの地を離れることを勧める。否。懇願する。クイーンと共に、この地を離れ……ネクロマンサーの手から、
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