或る短かな後日談
一 情動
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」
離しはしない。もう、手を。繋ぎ損なったりはしない。
「……ありがとう、ございます。ありがとう……母様を想ってくれて。ありがとう……」
リティの伸ばした手に、手のひらを重ね。クイーンは、長い前髪、その奥。溢れた涙が筋を引き。
「……でも、まだ分からないことがあるの。アリスは……確かに私達と一緒に目覚めた。それが、どうして?」
すん、と。鼻を鳴らし。少し、呼吸を整えて……必要無いはずなのに。そんな動作に、少し、頬が綻ぶ。
「少しだけ、専門的な話になります。まず、母様がドール……あなた方のような、ネクロマンサーによって作られた、心を持ったアンデッドとして目覚めたのは他でもない、母様の意思です」
「アリスの……?」
「母様は一度、本来の身体と自身の自我次元の接触を断ちました。そして、予め製作しておいたドールとしての身体と自我次元を接触させ、ドールの身体に精神を移したんです」
あなた達と行動を共にする。そうして、姉妹を装って、あなた達を苦しめるために、と。彼女はそう、付け加えて。
「母様は長い年月の中で狂ってしまいました。初めは確かに、あなた達を……全てを元に戻すため。けれど、段々と捻じ曲がって……加虐的に、と、言っても差し支えありません。きっと、誤解もあるんでしょう。その結果が、今、この状態です」
「……えっと、ごめん」
「ああ、説明するわ。多分、マトは元々、そういうことを知らされていなかったのね」
自我次元。死体操作術を支える理論の一つ。生物の自我は脳における科学的反応に拠って生み出されるものではなく、別の次元……自我次元と呼ばれる領域と脳が接触することで発生するとした理論。脳は情報を蓄えたレコードであり、自我次元はプレイヤー。その二つが接触することによって、思考する自我が発生する――そう、リティは私へと語り。
「……私はそれを、好機と捉えました。故に、私は……細工をしたんです。母様のドールとしての身体、脳から、ネクロマンサーとしての記憶を削除しました。そして、与えられた仕事……ドールとしてのアリスの脳を、自我次元へ接触させたんです。もう一度、彼女が……お二人と生きることが出来るように。けれど」
「……ごめんなさい。守れなかった」
「いえ。母様の配置した悪意は……あなた方を壊し尽くしてしまう程に強大だった。あなた方が無事で、本当に良かった……」
そうして。私達に伝えるべきはもうないのか。彼女は、そして、私達は。少しの間、沈黙して。
「……母様の元へ向かうのであれば、私も同行します。母様の止めるのであれば、それは、私の願いでも――」
「クイーン」
彼女の言葉に、誰か。機械的な声。抑揚のない声。それが投げられ、重なって。思わず身を翻し、構えれば。
「……
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