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わせる響きのいい声だが、寂寥の音も同時に再現しているため、少し恐怖を覚える。
この40区で、街区端のギリギリのところに建つ大屋敷を買おうとしていたアリスを見かけ、声をかけたのは俺である。それは決してこの世界では珍しい女性プレイヤーがいたからではなく、あまりにリアルの彼女と似ていたからだ、と俺は今でも主張している。すると彼女は、まだ決まった住居を持っておらず、宿を転々としていた俺に、
「アンタは特別。住んでもいいよ」
と返したのだ。それ以来、俺はここに住んでいる。
「そのセリフを言うにはちょっと早いな。今5時57分だぜ」
お決まりの返事を返しながら、俺はアリスの朝食の準備を手伝う。他人から見れば夫婦にしか見えない光景だが、幸いこの世界にはシステムによって《結婚》という物が明確に定義されているため、全く気にしていない。
「今朝の材料は悪魔の肉だよ」
感情を隠しているのか隠そうともしていないのか判断がつかないニヤニヤ笑いを溢しながら、アリスは料理の解説を始めだす。現実なら「お前魔女かよ!」と突っ込んでしまいそうなセリフだが、ここ数日フィールドに悪魔が大量発生しているため、そろそろ来ると思っていたのが当たった、という感覚で留まった。実際彼女はフィールド前線で狩りをする魔術師であるため、ほとんど魔女と言ってもいいのだが。
「そんなことよりメシだ」
俄然『花より団子』の姿勢を貫く俺にアリスは苦笑いを返した。
「はいよ」
「いい加減杖を背負ったまま寝る癖は直した方がいいと思うけどねえ。ここは宿じゃないんだよ?戦闘道具を食事の場に持ち込むのはマナー違反だとは思わないかい?熱心魔術師クロトさんや」
「仕方ないだろ、昨日帰ってきたの遅かったんだからさ」
他の部屋と同様に、かなり広い――一般プレイヤーどころか最前線で戦い、かなりの資金を得ているプレイヤーの部屋より広い――ダイニングで朝食を摂りながら、つい最近聞いたような会話が始まる。
この世界にも睡眠という概念は確固として存在しており、寝なければ当然の如く眠い。それはおそらく、脳波をジャックしているとはいえその働き自体は何の阻害も受けていないわけであり、休眠を与えなければ不調を来す、この一連の流れは自然の定理と言ってもいい。その次の日は攻撃の命中率が格段に低いのはシステム的な事ではない気がする。
そんな「重要な行為」である睡眠と、あくまで「戦闘用具」の杖では、睡眠を優先させるのは言うまでも無い。どちらにしろ、俺は物の管理が苦手なため、いずれは杜撰な手入れによる耐久力消耗で消え去る運命にある杖である。善処はしているが、結局このゲームが終わってしまえば無用の長物。諦めて休息重視で過ごしている。
「気にならんのかい?少なくともアタシは寝られんと思うがね」
確かにそうだ
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