第一章
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六甲おろし
根室千佳の朝の目覚ましは決まっていた、広島カープの応援歌だ。
この朝もこの曲で目覚めてだ、家の一階のリビングに出たが。
兄の寿の姿が見えないのでだ、母に尋ねた。
「お兄ちゃんは?」
「お祈り中よ」
朝食を作りながらの返事だった。
「阪神の来年の日本一を願ってのね」
「また変なお祈りしてるの」
「神道のね」
「っていうと前やってた」
神道と聞いてだ、千佳はすぐに兄が以前していた祈願を思い出した。
「お百度参り?」
「ええ、八条神社までランニングで行ってね」
「それでお祈りしてるの」
「今度も百度参りするって言ってるわ」
「それ毎年一回はやってるわよね」
やれやれと言いつつだ、千佳は自分の席に座った。
「阪神の日本一をお願いしに」
「そういえばそうね」
「他にも色々やってるけれど」
「あの子自分で言ってるでしょ」
「自分の血は黒と黄色だって」
「赤じゃなくてね」
実際は当然赤だがそう力説しているのだ。
「そう言ってるわね」
「何かシーズンが終わると」
こうした意味で毎年である。
「お百度参りしてるわね」
「百度って言いながらオープン戦はじまるまでね」
「やってるわね」
「毎朝ね」
「元気ね」
千佳の言葉には感嘆さえ含まれていた。
「本当に」
「だからスキー部でもホープなのよ」
「それがトレーニングにもなるから」
家から三キロ程離れているその神社まで走って往復することがだ。
「それでなのね」
「そうよ、しかもストレスも解消されて」
ランニングというスポーツによってだ。
「すっきりと勉強にも励めて」
「成績優秀なのね」
「シーズンはじまったら勝って喜んで走って負けて怒って走って」
「とにかく走ってすっきりしてるから」
「元気で勉強にも励めてるのよ」
「つまりいいことなのね」
千佳はしみじみとして言った。
「お兄ちゃんには」
「そうなるわね」
「というか」
千佳は母が皿の上にベーコンエッグを置くのを見つつ言った。
「私のカープもそうだけれど」
「お兄ちゃんが阪神ファンじゃなかったらね」
「どうなるのかしら」
「ゾンビでしょ」
母はここでも即答した。
「それこそ」
「生きる意味を失って」
「そうなるでしょうね」
「朝起きるのは六甲おろしで」
このことは千佳と大体一緒だ。
「常に阪神グッズ持ってて」
「あんたと同じでね」
「私もカープないと死ぬし」
自分で言う千佳だった。
「お兄ちゃんに阪神がないと」
「ゾンビになるわよ」
「極端ね」
「だって下着は絶対に黒と黄色でしょ」
当然トランクスである。
「それ観てもわかるでしょ」
「派手な下着ね」
「そう言
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