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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十一話 ワイングラス
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している。司令長官がワイングラスの水を飲んだ。まさか、ジークは嵌められた? 暗殺はでっち上げ?

「ローエングラム伯に対する処分はどのようなものに」
重苦しい雰囲気の中、ワルトハイム参謀長が困惑するような口調で司令長官に問いかけた。

「伯が何処まで事件に絡んでいるかは分かりません。とりあえず一切の権限を剥奪しオーディンへ送ります。後は憲兵隊の仕事になるでしょう」
「……」
「各艦隊司令官への連絡を準備してください、私が直接話します。最初に別働隊を、但しブリュンヒルトは除いてください。……質問は」

質問は無かった。皆、それぞれ準備のために席を離れる。残ったのは司令長官、リューネブルク中将、フィッツシモンズ中佐、私……。人数が減っても重苦しい雰囲気が消える事は無かった。

「閣下」
少し声がかすれた。司令長官が私を見る、そして直ぐ視線をワイングラスに向けた。一瞬だったけれど何の感情も見えない視線だった、声をかけたことを後悔したが、それでも聞きたい事がある。

「ジークを、キルヒアイス准将を罠に嵌めたのですか?」
「男爵夫人!」
リューネブルク中将が低い声で私を叱責した。しかし司令長官は右手を上げて中将を抑えた。

「ええ、他愛ないものでしたよ。彼は謀略に向かない」
「お分かりなら何故そんな事を」
私の非難に司令長官は何の反応も表さなかった。ただワイングラスを指で撫でている。視線もワイングラスに向けたままだ、もう水は入っていない。

「勘違いしないでください。彼が私を殺そうとしたのは事実ですし彼らが簒奪を考えていたのも事実です。男爵夫人も薄々は気付いていたでしょう。非難されるのは心外ですね」
「!」

リューネブルク中将とフィッツシモンズ中佐が息を呑むのが分かった。気付いていたでしょう、その言葉が耳に響く。確かにそうだ、一度でもその事を思わなかったと言えば嘘になる。ラインハルトの行動が皆から不審を持たれている事も知っていた。でも暗殺などするような卑劣さとは無縁だと思っていた。まさかジークが……。

「キルヒアイス准将のように卑怯などと詰まらない事を言わないでくださいよ。これは戦いなんです、一つ間違えば私が死ぬこともありえた。いや、実際一度死にかけたんです。しかし私は死ななかった、そして勝った……、ただそれだけです」

司令長官が微かに笑みを浮かべて私を見ている。何処か禍々しい、怖いと思わせる笑みだが目は笑っていない、こちらを見定めるように冷たく光っている。お前は彼らの野心を知りながら知らぬ振りをした、お前も彼らの一味だ、そう言われているような気がした。

「……ローエングラム伯が閣下を暗殺しろと命じたのでしょうか?」
「いいえ、それはないでしょうね。彼はそんな卑小さとは無縁です」
「だったら何故
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