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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
58.第八地獄・死途門界
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てのは神聖なる物なんて言われてるが……実際には、罪人を縛り付ける苦しみの重荷でしかない。イエス・キリストという変わり者の男のせいで事実と建前は逆転してしまったが、これは『俺』の罪だ」
「罪……命を粗末に考えてた罪か?それとも七つの大罪?或いは、原罪ってヤツか?」
「さぁな。そもそも、何が罪かなんてことを人間が決められるものかねぇ……」

 『死望忌願』は目を細めながら、囁く。

「罪は死で贖われ、十字架は解放される。十字架は罪の重さであると共に、罪との距離……『こちら』と『あちら』を繋ぐ墓標でもある。傷も苦痛も、すべては距離………死の危機に瀕したお前は、限りなく仮面に近づいている」
「十字架が距離………?俺とお前が近づいてるって……?」
「……鈍いヤツだな。この十字架は救済であり、諦観であり、死苦であり、そして使い方によっちゃあお前さんの夢とやらを存続させる武器でもあるんだよ」

 十字架が武器――いや、投擲武器や棍棒として強力であることは実は知っていたのだが、どうにもこの十字架は俺の想像とはまったく違う意味を内包したものらしい。

「背負え、この十字架を。俺がお前なら、お前は俺になれる。お前がオーネストの荷物を背負う気なら、これぐらい余分に背負って見せろ。『こちら』に生きるならば『あちら』に引っ張られるな。前を向いて、後悔さえ飲み込んで進め。俺はお前の仮面だ、お前の写し身だ。常に俺はお前の心と共にある」

 そう告げて、俺の背負った『死望忌願』が光の粒子となって消え去った。

 俺は息を切らしながら話を延々と反芻し、手から鎖を出して地面に突き刺さった十字架を引き抜いた。白銀のように美しく、赤黒く乾いた血を含んでも尚純粋な輝きを放つそれは、俺の心臓に不思議な鼓動を齎した。

 暖かく、冷たく、近く、遠く――曖昧で矛盾した感覚が交錯する。

 俺は、これが本当は何なのか、不思議と理解できる気がした。
 いつかオーネストが告げたあの言葉を思い出し、俺は溜息を吐いた。


 ――その力の本質は『人間』だ。

 ――『人間を生み出した神』から解脱しようとする力と言ってもいい。


「何の情報もない所からそこまで核心に迫れるオーネストも大概だが……さてコイツ、どう扱ったものかね……」

 苦笑しながら、俺はゆっくりと十字架に手を当て――眩い光ではなく、沈むような暗黒に包まれた。
 
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