58.第八地獄・死途門界
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、それ以上に自分自身が嫌いな男。黒竜との戦いの中に、あれは自分の死に場所を見出そうとしていた。あの男が世界を滅ぼすと言い出したら、本当に世界を滅ぼすために動き出すのだろう。
そして、この星からきれいさっぱり人間を抹消し、神を抹消し、魔物を抹消し終えた究極の静寂が包む爆心地で、いよいよを以って自分を滅ぼすのだろう。
「似たもの同士だよ、お前らは」
「似てないさ」
でも、俺は断言できるから。
俺がここで全部投げ出してくたばるのと、オーネストのそれが決定的に違うと思うから。
「オーネストは逃げようとはしない。心は捕らわれていても、体は常に前にある。例え未来に広がるのが希望の見えない永遠の空漠だったとして、それでもオーネストは前を向いて死のうとするんだ」
「たった二年、隣にいただけで随分知ったような口を利く」
「真実なんて知ったことかよ。俺がそう思ってるんだ。思うのは勝手だろ。それこそ神にだって俺の抱いた印象に口を出す権利はねぇ」
俺の知っているオーネストは、いや、オーネストの中にいるあの友達は、俺とは違う。
全身の骨が砕け散って、すべての人間が持つべき財産と尊厳を失って、絶対に抗えない運命の流れに押し流されたら。自力では何一つ理想を叶えることが叶わず、誰の手を借りることも出来ず、縋るべき希望を失った遭難者になったとしても、あいつは立つ。立って、前へ進んでから死ぬ。
俺なら、そこまで行ったらきっと無理だ。前へ進むとか後ろに下がるとかそんな問題ではない。自分の存在が存続していくという事実を受け入れるより前に壊れて、自分でも何を考えているのかわからなくなってしまうだろう。
でも、オーネストという男は全部背負って現実を見極めて、自分に希望が残されていない事を知ってから立ち上がる。すべて余さず背負って前に進めるのだ。
閉塞的で絶望的で、それでも、生きているから。
生きている以上は、進むしかない――それが生きるという事だと知っているから。
生きているからこそ、あいつはあんなにも愚直に死に向かえるのだ。
それは何より輝かしく、愚かしく、重苦しく、悲しく、どうしようもなく「人間」だということだ。
「俺、思ったんだけどさ……オラリオから俺の眼に映った世界だと、自殺ってのは異端的なんだ。人間が普通に抱く思想じゃない。俺のいた世界じゃ普通なのかって言ったらそれは違うけど、なんというか、根底にある意識がどこか決定的に違う」
いつだったか、俺が死を肯定したときにティオネは強い拒否反応を示した。
それは、恒常的に命の危険が存在する世界とそうでない世界――その間に生まれる認識のずれ。
これは俺の勝手な思い込みだが、命の危険が少ない俺の世界や認識の中で、死の在り様が変貌している。その変貌した形
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