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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
58.第八地獄・死途門界
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げた。眩しさに目を覆いながら、それを見る。

 大きな十字架と、それに纏わりつく鎖。その鎖に全身を雁字搦めに縛り付けられたそれは、よく見れば人間だった。
 動きを拘束されるように2本の槍のようなもので両足を貫かれており、足元には血だまりが広がっている。抉れた肉は既にすべての血を出しきったとでも言わんばかりに赤黒く変色し、見る者の神経をざわつかせる痛々しい断面を晒している。

 と、鎖に絡め取られた人間が顔を上げた。
 生きているのかも怪しいほどにやせ細り、生気を無くした虚ろな顔は、幽霊と見紛う。
 抉り取られているのか、右目があるはずの空間がぽっかりと空き、守るべき眼球を失った瞼がくぼみを作っていた。それだけではない。同じ右頬の皮膚は酷いやけどで爛れ、身体も傷だらけ。その身体はまさに死に体だった。
 助けようと声をかけようとし、ある事実に気付く。

「あれ、なんか………デジャヴュ」

 この光景に、このシチュエーションに、強い既視感を感じる。
 時間も空間も曖昧な世界の、しかし確かに起きた記憶。
 俺がオラリオという世界に五体満足で現れる、そのほんの少し前。

「ということは……おい、これどゆことなん?なぁ、『死望忌願』?」
「よお、やっと気づいたか?相も変わらず呑気なようで何よりだ……」

 じゃらり、と鎖を鳴らして声を絞り出したズタボロの『俺』は、口角を吊りあげてくぐもった笑い声をあげる。酷く擦れていて、電波状況の悪いラジオのように聞き取りづらかった。だが、何故か何を言っているのかは理解できた。

「随分な顔色だな。ひでぇ有様じゃねえか。アバラ何本かイってるだろ?罅の入った骨は幾つだ?千切れた筋も何本か鎖でも無理矢理繋ぎとめてるな」

 どこか愉快そうにさえ見えるズタボロの俺の目の前で、今にも倒れ伏しそうなアズライールとしての俺がよろめく。持てるすべての体力を両足に注いでいなければ崩れ落ちてしまいそうだ。磔の俺の言う通り、もう体はガタの来た部分を強引に鎖で繋ぎ合わせて何とか外面を保っている。
 鎖を使うにも魂を削る。維持するのにもまた、大なり小なり力を使う。

「そこまで苦しんで尚、まだ生きようと思ってるのか?」

 消耗しきった体と心に囁くのは、「諦めて倒れてしまえ」という甘い誘惑。
 諦めて、自暴自棄になって、何もかも投げ出す瞬間の解放間を想像する。
 全てを諦めて、このスポットライトの外に広がる無明の中に融けてゆく。
 それは――それは、確かに甘美な誘惑だ。考えないでよいという事は、それ自体が救いでもある。

「お前の友達も――オーネストもそうだろう?破滅を望んでいる。違うか?」

 オーネスト――師匠、恩人、悪友、トラブルメーカーの悪態製造機、暴力の化身――誰よりも暴力が嫌いで
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