58.第八地獄・死途門界
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った空中戦が突風と激突音を伴って地上に降り注ぐ。
途中からオーネストは態とリージュの作り出した氷を砕き、今度は風と氷を合わせた突風を発射し、黒竜が発射した獄炎の息吹と衝突。さしものオーネストの風も黒竜のブレスまでは完全に防ぎきれなかったのか、逸れたブレスはオーネストより下方の60層の壁に衝突し、ものの数秒で壁を真っ赤に融解させ、貫通させた。
オーネストの表情はいつもの無表情や世界を呪うような滅気に満ち溢れたものではなく、どこか苦し気だ。
「慣れない事をすると……神経が、擦り減るなッ!!」
今の一撃、逸らすにしても59層の方向に逸らすことは出来ない。上の階にいるであろう別の冒険者――ココ達――に命中する可能性があったからだ。別に死んでも俺には関係ないが、この喧嘩はアズライールの喧嘩だ。それを思い出してしまったオーネストは、もうアズライールの流儀に則った戦い方をせざるを得なくなった。
心底煩わしくて、合わせることがこの上なく鬱陶しい。
しかし、そんな苛立ちにオーネストは内心で苦笑していた。
これは、いわば自分で逃げてきた道であり、勝手に生き続けてきたツケだ。
(――だから嫌だったんだ。お前なんぞと……お前らなんかに……本当なら、気にせずにただ暴れているだけの方が楽でいいに決まってる。死んだ人間背負うより、今を生きる人間を背負う方が重いに決まってるんだよ)
死んだ人間はもうこの世界のどこにもいない。ただ記憶という名の残滓を残し、忘却の彼方に辿り着くまでそこに存在し続ける。それは消えない傷であり、何よりも残酷なことだ。
しかし、生きた人間は違う。死者は質量を持たないが、生者は物質的質量と記憶的質量の両方を持つ。そして物質的な部分でしか会話することのできない人間は、過去の記憶と違ってこれから如何様にも変幻しうる未知数で不安定な存在だ。
過去を守るのは容易い。過去に殺されるのも又、容易い。
本当に難しいのは、今という奇跡的なバランスで保たれた世界を維持することだ。
世界を構成するのは認識だ。認識は生きとし生ける者が刺激として感じることのできるすべてだ。隣人も美意識も価値観も五感も、それを刺激として認識しうるのならそれが人間の脳裏に構成された現身の世界なのだ。そして世界は狭ければ狭い程、選択という苦しみを少なくする。
これがアズライールの世界――その価値観のほんの一部。
オーネストはアズライールが目覚めるまでの間、その肩代わりを嫌々ながらしてやっている。
ただこの一欠片の価値観を借り受けただけで、オーネストは自分を維持し、他人を維持し、不測の事態に対応できる形をしながら自分の使いたくない魔法を使って、普段と全く違う戦法まで用いて黒竜と戦わなければいけない
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