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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十話 仮面の微笑
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は賢いやり方ではありません。疑われますよ、准将」
その通りだ、射殺は拙い。それではラインハルト様にも疑いがかかる。
「射殺はしません。閣下にはこの薬を飲んでもらいます」
ポケットからカプセルを取り出した。司令長官は黙って見ている。目には興味深そうな色がある。
「この薬は心臓発作に良く似た症状を引き起こします。それにこの薬は一旦体内に取り込まれると検出するのは非常に困難です。他殺を疑われる事は先ずありません」
「私がその薬を飲むと?」
司令長官は口元に苦笑を浮かべている。嘲笑でも冷笑でもなく何処か楽しんでいるように見えた。どういうつもりだ。
「飲んでいただきます。拒否された場合は全身を麻痺させてから口に含ませます」
「なるほど、ブラスターを捕獲用にしましたか」
「……そうです」
司令長官は何度か頷いた。
「いつからその薬を用意していました?」
「閣下の幕僚になったときからです。出来ればこの薬は使いたくありませんでしたが……」
「残念でしたね、バラ園での襲撃は上手くいかなかった」
「……」
「否定しないのですね、准将。やはり関係していましたか」
その通りだ、あの事件さえ上手く行っていれば今頃はラインハルト様が宇宙艦隊を指揮しているはずだった。
「何故私を殺すのです、キルヒアイス准将」
「時間稼ぎですか」
「いいえ、ただ疑問に思ったのです。何故私を殺すのだろうと」
「邪魔だからです」
「邪魔とは?」
「ラインハルト様が帝国を手に入れ、宇宙を征服するには閣下は邪魔なのです。閣下さえ居なければラインハルト様は……」
「ローエングラム伯が帝国を簒奪するためには私は邪魔ですか」
司令長官はそう言うと苦笑を浮かべた。もう終わりにしよう、この人と一緒に居るのは不愉快だ。殺すのも不愉快だが一緒に居るほうがもっと不愉快だ。
「最後に何か言い残す事は有りますか」
「そうですね、是非も無し、それとも夢のまた夢かな……、どちらも陳腐ですね」
そう言うと司令長官はまた苦笑した。陳腐だろうか、どちらも印象に残る言葉だ。少なくとも私は忘れる事は無いだろう。
「御自身で飲まれますか、それとも……」
「自分で飲めますよ、こちらに薬をください」
執務机にカプセルを投げた。カプセルが執務机の上を転がる。司令長官がカプセルを手に取った。そしてこちらを見て笑った、先程までの面白がるような笑いではない、冷たくそして蔑むような笑い。
「これで自殺は出来なくなりましたね、准将」
「?」
「茶番は終わらせましょうか」
「そうですな」
背後のクローゼットから人の声がした! 人が居る! 馬鹿な! 振り返りざまブラスターを向けようとした瞬間に手首に何かがぶつかった。衝撃でブラスターが手を離
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