『満月』
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大きな大きな満月が水面をすっぽり覆う。
触れれば手に入りそうで、でも逃げていきそうで。
決して手を伸ばすことはなかった。
ずっと、ただただ眺めるだけ。
息をすることすら窮屈で、過呼吸がやまない日ですら我慢するしかない。
泣きたくて泣きたくて、辛くて悲しい時だって我慢するしかない。
我慢することで何かが少しずつ零れ堕ちてた。
そんなことには気付かず、段々と大切な何かを過去へ置いてきてしまったんだろう。
変化なんてものは此処には無い。
在るのはいつだって確かなイタミだけだった。
世間の常識やルールなんてのは知らない。
だって誰も常識的な人間なんて存在しなかったから。
致命的な傷を受けたって死ねない此の躰を呪った。
傍観者は皆が無責任で無感情で偽善者だった。
其れに気付いた時、ただただ眺めていただけのものに手を伸ばした。
生温かいものが此の手を包んだ。
水面に浮かぶ美しき満月がユラユラ揺れていた。
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