第37話『恩人』
[4/4]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
『恩人』だなんて、かつて言われたことがあっただろうか。少なくとも、現存する記憶の中には入っていない。
晴登は静かに口角を上げ、その事実に苦笑。自分はホントに普通の人生を送ってきたのだなと、痛感する。
するとユヅキは、極めつけの一言を呟いた。
「ハルト、ありがとう」
嬉し泣きだろうか。彼女の溢した涙が、顔に降ってくる。
それを真に受けながら、晴登もまた口を開いた。
「こっちも同じ気持ちだよ。当ても無くさまよっていた俺に、ユヅキは場所を与えてくれた。それこそ、感謝の気持ちで一杯だ。・・・ありがとう」
最後の単語を言うのも、少し恥ずかしい。でも、感謝を伝えることに恥じていてはダメだ。
上を向き下を向き、互いに互いの目を見据えて感謝を伝え合う。
──刹那、ユヅキが晴登に顔を近づけてきた。目を瞑り、口先に意識を集中している。
そして・・・
「ちょ、顔近い」
「あぅ」
赤面した晴登の右手によって、その行為は阻まれた。
晴登は眼前に迫るユヅキの顔から目を逸らし、申し訳なさそうにそう言う。彼女の行為の意図は掴めなかったが、女の子が近くにいるだけでも照れるというのが男の子なのだ。
ユヅキは自分を阻害した右手を忌々しそうに見つめるが、すぐにホッとした表情をする。そして、両手で涙を拭った。
晴登はその様子を見ると、笑みを溢す。
やっぱり、泣いているより、笑っている方が断然良い。
ただ晴登は内心、何か良いチャンスを逃した気がする、とだけは思っていた。
「あ、そうだハルト。もしよかったら・・・明日、一緒に入る…?」
「いや、遠慮しておきます…!」
その後、思いついたように危険な発言をするユヅキに、晴登は更に顔を真っ赤にしながら返答した。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ