第37話『恩人』
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、脳が要領オーバーした晴登は遂に、バタリと倒れてしまった。
*
「ん…」
目が覚めた。夢を見ていた気はしない。
ただただ、何も無い意識を揺蕩っていたと思う。
「ハルト、起きた?!」
「うわっ!?」
そんな曖昧でボーッとしていた頭を覚醒させたのは、ユヅキの一声だった。寝ている晴登の眼前、これでもかと顔を近づけている。
もちろん晴登はその不意打ちには対応できず、すぐさま体を起こして距離を取ろうとした。
──起き上がれない。
理由は単純。ユヅキが晴登の額を押さえていたからだ。
すると、その額からヒンヤリと冷たい感覚が伝わる。
「ハルトはきっと逆上せたんだよ。今冷やしてるから、もうちょっと待ってね」
ユヅキが述べた理由に疑問を覚えるも、直後「そうか」と納得。
彼女は、晴登の倒れた理由をそう解釈したのだ。
晴登は思い出すのも恥ずかしいので、わざわざその解釈を覆すことはしない。
「ごめん」
その代わり、口から出たのは謝罪の言葉。
それでも、ユヅキは晴登を優しく見下ろすと、
「気にしないでよ。さっきはボクも…その…ね」
ユヅキは顔を真っ赤にして、後半蛇尾になりながら言った。よく見ると、耳まで赤々としている。
それに関しては、晴登も全く同じ気持ちだ。とても恥ずかしい。
お互いに忘れたい一件である。
それはそうと、晴登には気がかりがあった。
「さっき言ってた、俺に『救われた』って…どういうこと?」
記憶の最後、その言葉が頭に残った。
昼間の出来事ではないというのなら、晴登には思い当たる節がない。
ユヅキはそんな晴登を見据え、ポツリと言った。
「…簡単な話だよ。ボクの孤独を、晴登が救ってくれたんだ」
「え…?」
言葉の意味がわからず、またもや困惑。
晴登にとって今の答えは、疑問の断片も解決していない。
『ユヅキが孤独』。それは完全に初耳なのである。
ユヅキは言葉を続けた。
「ボクには元々、同年代の友達がいない。昼間に、魔法が使える同年代に会ったのは初めて、とか言ったけどさ、そもそも他の同年代との交流なんてこれっぽっちもなかったんだよ」
ユヅキが淡々と語った内容。それは決して、流して聞けるものではなかった。
彼女には友達と呼べる者がいない。その悲しさや寂しさを、どうして軽んじることができようか。
となると、そこに現れた自分。それが意味することは・・・
「だからハルトは、ボクの初めての友達。だから、"恩人"なんだよ」
照れ臭い気持ちが胸の奥に宿る。こうも堂々と言われてしまうのだから、無理もないだろう。
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